第3話「僕は魔王が復活するまでに、強くなっておかなきゃいけないってことか」

「何もできない僕が、どうやって世界を救うのさ」と僕は唖然として言った。


「私にも分からないわ。私はただそろそろ魔王が復活しそうだから、水晶の矢印が指す者をこの世界に連れて来いって、おじいちゃんに言われただけだもの」と桃は平然と言った。




 何ということだ。この世界の奴らは、地球の人間が超能力だとか、身体能力が異常に高いだとか、そういうことは一切ない種族であるということを知っているのだろうか。さっきの桃の力の強さから考える限り、僕なんかより桃の方が強さは上であり、ましてや村の大人の者共は、さらにその上を行く力も持っているはずだ。




「ただ」と桃は言う。「あなたの持つ適性を村で知ることならできるわよ」


「適性?」と僕はワクワクして言った。


「えぇ、剣なのか魔法なのかとかね」


「僕にも魔法が使えるかもしれないってこと?」


「そうよ。ただ、適性があったとしても、それが上手く扱えるようになるまでには、物凄い努力が必要なの」




 努力か。僕が最後に努力と呼べるようなことをしたのはいつの頃であろうか。受験勉強ぐらいしか思いつかないぞ。




「僕は魔王が復活するまでに、強くなっておかなきゃいけないってことか」と僕は言った。


「そういうことね」




 間に合うのかな。




「ところで、村を救って欲しいって言ってたけど、村ではどんな問題が起きているの?」と僕は言った。


「私と他数人以外の村の皆がね、何故だか笑うことができなくなってしまったの。そしてとうとう昨日、皆が倒れ込んでしまったの」と桃は言う。




 笑うことができないって、どういうことだ。




「原因は分かるのかい?」と僕は言った。


「見当はついているわ。三日前に村の皆から笑顔が消えたの。皆が言うにはその日の昼、村の上空に突然、奇妙な恰好をした人間が現れたらしいの。全ての明るい色を詰め込んだような服装で、肌は真っ白だったって言っていたわ」




 ピエロだろうか。




 村へ近づくにつれて、二人の人間が門の脇に立っていることに気付いた。門番ってやつか。




「あの二人は笑うことはできるのかい?」と僕は言った。


「えぇ、あの二人はああやって村の外に出ていたから、無事だったの」と桃は言った。




 それから暫くして、僕と桃は村の門へと到着した。門番の二人にもやはり、桃のように角が生えている。僕から見て左に立っている者は桃のように二本角で、右に立っている者は一本角であった。ふたりとも、僕がマッチ棒に見えるくらい筋骨隆々である。




「そこに立っているのは何者ですか? 桃様」と一本角が桃に向かって言った。そして僕を睨みつけた。




 桃様って言ったな。桃はもしかしてお姫様というか、そういう立場に近い人間なのだろうか。




「おじいちゃんにこの男を呼んでこいって言われたの。だから安心して」と桃は言った。


「長老様が、どうしてまたこんなひょろひょろな男を」と今度は二本角の方が言った。


「それは私も思ったわよ。もういいかしら、通してもらうわよ」




 その言いぐさはちょっとあんまりじゃないだろうか。事実だけどさ。




 一悶着ありながらも、僕は村の中へ足を踏み入れることができた。足を踏み入れたは良いが、村人の気配が全くない。




「本当はもっとずっと賑やかな村なのよ」と桃は言った。「皆倒れこんじゃったから、静かになっちゃったわ」と桃は寂しそうに言った。

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可愛くて腕力の強い角の生えた女の子の住む異世界に行きます @umibe

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