第2話世界を救える者

「この水晶の矢印にはね、英雄の血が取り込まれていて、その英雄と最も近い血を持つ者の方向を指すらしいの。そんな水晶があなたを真っすぐ指しているのだから、あなたが英雄の子孫で、あなたを私たちの世界に連れて来いってことなの」と言って女の子は水晶を上下左右に動かした。水晶はどこにあっても、常に僕の方を真っすぐに指していた。




「な、なるほど。よくできてるな」と僕は言った。だとしたら、英雄が母方か父方、どちらの先祖かは知らないが、両親や妹に矢印が向かないのはどうしてなんだろう。僕の方が英雄に近い人間ってことなのかな。それとも水晶に物理的に近いのが僕だからとか。それはちょっと夢がないので、僕が英雄に近い人間だからということにしよう。




「行くの? 行かないの?」と女の子は僕を急かすように言った。




 彼女のそう言う様があんまり鬼気迫っていたので、僕は「行く、行くよ」と言った。今すぐ行かないと、彼女の世界はまずいことになってしまうのだろうか。


「それじゃあ、私の住む世界に向かうわよ」と言って彼女は右手を人差し指にして空中に円を描いた。すると、丸い鏡のようなものが僕の部屋の空間に現れた。




「それじゃあ、向かうわよ。この鏡は私の住む世界に繋がっているの」と女の子は再び僕の手を取って言った。


「うん」と僕は返事をした。


「そういえば、自己紹介がまだだったわ。私は桃ももって名前なの。あなたは?」


「僕は春太郎はるたろう。岩本春太郎」


「春太郎ね。それじゃあ春って呼ぶわ。ここまであなたにちょっと強引だったかもしれないけれど、本当にお願い、私の世界を救って」


「ちょっとどころか、大分強引だけどね」




 そうして僕たちは鏡の中をくぐっって行った。鏡を通って行くと、そこには草原が広がっていた。




「あら、私の部屋へ出るはずだったのに。ずれちゃったわ」と桃は言った。


「ここから君の村までどれくらいなの?」


「そんなに掛からないわよ」と言って彼女は僕から見て右側を指さした。




 桃が指した方向を見ると、高い石段に囲まれた村があった。


「この世界を救うって、僕は何をすればいいのかな」と僕は桃に訊いた。


「あなたには、村を救って欲しいの」と彼女は言う。




 最初は村を救うのか。良かった、いきなりラスボスじゃなくて。




「この世界に来て、僕に大いなる力が目覚めたりするのかい?」と僕は言った。


「そんな都合のいい事あるわけないでしょう」と桃は言う。


「え、ないの!?」


「ないわよ」




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