第32話 改良した魔法陣の確認(2)

「……」


 改良後の結界があっさりと破壊されてしまったことに、思わず頭を抱えてしまう。


 いやまあ、見るからに威力のありそうな攻撃だったから、単純にスノウの攻撃が強すぎただけという可能性もある。

 けれど、そもそもが威力のある攻撃に対しても防ぐことができる結界を求めたからこその改良なわけで。

 それを考えると、今回のこの結果は失敗ということになってしまうのではないだろうか。


「……先ほどの攻撃は、かなりの威力が出ていたと思います。

 ですので、お嬢様が何を相手に想定しているのかはわかりませんが、この周囲で見かけるような魔物や一般的な賊程度であれば十分な強度があると思いますよ。

 そもそも、結界としては最初の一撃を防ぐことさえできていれば最低限の役目は果たしていると言えますし。

 というより、最悪、相手の攻撃を相殺できるだけでも十分だと考えることもできるはずですので」


 しばらく頭を抱えたまま悩んでいると、その様子を見かねたアドルフが声をかけてきた。

 その言葉を聞き、うつむいていた顔をあげて問い返す。


「本当にそう思う?」


「ええ。

 さすがに、ケルヴィン殿クラスになると破られる可能性はありますが、逆に言えばそれ以下の力しか持たない相手であれば問題ないはずです」


 なるほど。

 溢れのときに深層奥の魔物の相手をして、それを討伐しているケルヴィンさんクラスにならないと改良した結界を破壊することは出来ない、と。

 というか、そうなるとスノウもケルヴィンさんと同じくらいの力があることになるのだけれど……。

 まあ、今はそれについては置いておきましょうか。


「ちなみに、改良前の結界についてはどうかしら?

 オニキスの体当りや踏みつけで破壊されていたけれど」


「そうですね、そちらに関してはやや心もとないという感じでしょうか。

 威力を軽減するという意味では無意味ではありませんが、ある程度の実力がある相手には通用しないと思います。

 おそらく、私の攻撃でも破壊できると思いますし、護衛チームにいる他の者でも破壊は可能だと思います」


「つまり、身を守るためには使えない?」


「いえ、たとえ破壊されたとしても、攻撃を一度は止めることができると思いますので無意味ではありません。

 さすがに、結界を破壊したうえで攻撃を届かせることができる相手は限られると思いますから」


 確かに、結界越しに攻撃を届かせてくるような相手というのは、そうそういない気がする。

 それこそ、さっきのスノウのように一撃で複数枚の結界を破壊することができる相手ということになるのだから。

 つまり、ケルヴィンさんクラスの実力者か威力のある上級魔法を使うことができる相手ということになるはずで。


「……もしかして、魔法陣を改良する必要はなかった?」


「いえ、使う相手を賊などの人間に限定するならともかく、魔物相手も想定するならば結界の強化は意味があると思います。

 魔物であれば、先ほどの攻撃のように、一撃で結界ごとお嬢様へと攻撃を届かせる相手というのも少なくはないと思いますので」


 まあ、人間相手ならともかく、魔物相手だと基本となる威力やリーチの長さが変わってくるか。

 というか、そもそものスタートが以前の騒動で遭遇したあの妙に強そうな男を相手にしても破られない結界というものなのだし、人間相手であっても強者を想定して結界の強度を上げることは無駄ではない気がする。


「わかったわ。

 アドバイスをありがとう、アドルフ」


「いえ、お役に立てたようで何よりです」


 そう言って元の位置へと戻っていくアドルフを見送る。


 とりあえず、今回の改良については無意味ではないものの、期待していたほどの効果はなかった感じなのかな。

 残念だけれど。


 ただまあ、アドルフの言葉から考えるに、私が期待しすぎていただけのような気もするけれどね。

 なんとなく、どんな威力の攻撃にも耐えられる結界というものをイメージしていたけれど、そんなものが片手間で用意できるはずがないのだから。


「まあ、完全に無意味というわけでもないみたいだし、今回はこれで納得しておこうかな」


 結界の強度が上がって困ることもないしね。

 作成時間については微妙に長くなっているけれど、そこまで時間がかかるようになったわけでもないし。


 最終的にそんな結論を出し、強度を強化した結界についての確認を終えることにした。




「じゃあ、次の確認はアッシュとアクアにお願いしようかな」


 そう告げて、アッシュたちへと視線を向ける。

 いや、魔法陣の確認を始めて以降、この子たちから期待に満ちた視線がずっと向けられていたんだよね。

 正直、性能を確認するのはオニキスとスノウにお願いするつもりだったけれど、足止め用の改良についてはこの子たちにお願いしてもいいのかもしれない。

 おそらく、追いかけっこのような形にすれば確認としてもちょうどいい気がするし。


 というわけで、範囲を広げたものについてはアッシュたちを相手に確認することにした。



「まあ、こっちはとりあえず問題なさそうかな」


 ひとまず、結界の数を増やして展開範囲を広くしたことによる足止め効果の強化は確認できた。

 ただ、元気なアッシュとアクアに付き合わされたことで、結構な時間を確認に使うことになってしまったけれど。


 というか、用意していた改良後の魔法陣が2枚しかなかったので、ほとんどの時間を改良前の魔法陣や自前の魔法で対処することになってしまったんだよね。

 まあ、それについてはアッシュたちが満足そうだからそこまで気にしていないけれど。

 それに、魔法陣を大量に消費してしまったことはともかく、自前の魔法で結界を出して足止めするという行為については想像以上に訓練としてよかった気がするし。



「とはいえ、アッシュたちにも結界が破壊されているのがね……」


 さすがに一撃で破壊されることはなかったけれど、アッシュたち相手でも壊されているというのは不安になってしまう。

 まあ、アドルフによると、アッシュたちもこれで結構な実力を持っているらしいけれど。


「改良してみたものの、やっぱり魔法陣については当初の想定通りにいざというときの保険と割り切るべきなのかな」


 改良したことが無駄だったとは思わないけれど、今回の確認結果を見る限りでは過信するべきではないだろうし。

 とりあえず、結界の魔法陣に関しては、足止めだったりとっさに攻撃を防ぐだけのものと割り切ることにしましょう。

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忘れられ令嬢は気ままに暮らしたい(旧題:忘れられ令嬢の気ままな日常) はぐれうさぎ @stray_rabbit

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