第29話 第一王女の生い立ち
「ふぅ」
どうやら、自分で思っている以上に疲れていたらしい。
自室へと戻ったところで、ため息とともにソファへともたれかかってしまった。
とはいえ、それも仕方のないことなのかもしれない。
結局、第一王女による諸々のチェックの後、どうせなら夕食を一緒にどうかというお誘いを受けることになってしまったのだから。
まあ、夕食の席にそのまま直行というわけではなかったし、言葉どおり夕食を共にするだけの気楽な席ではあったのだけれどね。
それでも、ドレスの打ち合わせから立て続けにというのはさすがに疲れてしまったみたいだ。
「それにしても、コーデリア殿下が直々に講師役を買って出てくださるなんて……」
ソファの上でだらけ続けた結果、どうにか先ほどの夕食の席でのことを思い返せるくらいの余裕が出てきた。
で、思い出したのが、第一王女自ら私のマナー教育や諸々の講師役を務めてくれるという話。
正直、これまでのようにエリーから教わることになるか、王都あたりからそれを専門にしている家庭教師が派遣されてくると考えていたから意外だった。
「申し訳ありませんが、私では国王陛下主催のパーティーで求められるようなマナーをお教えすることができませんからね。
一応、必要最低限という程度であれば可能かもしれませんが、王族の方や高位貴族の方を相手に求められるレベルを完璧に、というのは自信がありませんので」
まあ、そうだよね。
エリーも侍女が本業なわけだし、私に対するマナー教育についてはついでというか、本格的なマナー教育が始まる前の下準備的なものという感覚だったはずだし。
「というより、殿下は王都に戻らなくても大丈夫なのかしら?
さっきの話だと、パーティーの直前まで私に付き合っていただけるという話だったでしょう?」
いやまあ、そういう話になったということは戻らなくても大丈夫なのだとは思うけれど。
とはいえ、第一王女がこんな前線にいつまでも滞在していて大丈夫なのかと、自分のことを棚に上げて心配になってしまう。
「まあ、第一王女殿下は色々と難しいお立場ですので……」
「難しいお立場?」
「はい。
フェリシア様は、殿下のことについて聞かれたことはありませんでしたか?」
「多分、聞いたことがないと思うわ。
というより、そもそも噂話のようなものを聞く相手がエリーくらいしかいなかったからね」
領都の屋敷にいた頃は、噂話のような気安い会話ができる相手というのがエリーくらいだったし、辺境の町の屋敷に移った後は、そもそも貴族まわりの噂話を聞く機会がなかった。
まあ、ラビウス侯爵家の状況を探ろうとしたことはあったけれど、あれは少し違うと思うし。
「なるほど。
では、私が知っている範囲で簡単に説明いたしましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
そういう流れで、エリーから第一王女についての話を聞くことになった。
「……こういう言い方は失礼かもしれないけれど、ずいぶんと苦労されたのね」
「そうですね。
私も当時のことを詳しく知っているわけではありませんが、話に聞いた限りでは殿下を取り巻く環境はかなり厳しいものだったそうです」
まあ、それはそうだろうね。
第一王女として生を受けたのに、生まれつき子供がつくれない身体だった上、魔力量も王族として落第点を付けられる程度にしか持っていなかったというのだから。
「そういう境遇だったにもかかわらず、今も王国や王家のために動かれているのよね」
「今の王家の方々はとても良好な関係を築かれているそうですから。
なので、噂によると、殿下は幼いころから殿下を支えてこられた王家の方々に恩を返したいと考えていたそうです」
その結果が、さっき聞いた軍の上層部を目指していたという経歴につながるわけか。
まあ、この世界だと魔法がある関係で男女関係なく強くなることができるからね。
王女として子をなすことができないとなると、そちらの道で王族としての務めを果たそうと考えたとしても不思議ではない気がする。
ただ、その道も魔力量の問題で進むことができなくなったみたいだけれど。
「正直、軍の上層部で指揮を執るだけなら、そこまで魔力量を気にする必要はない気がするけれどね」
「そのあたりは色々とあったみたいですよ。
実際、殿下は学園をトップクラスの成績で卒業されたそうですし、そのことを考えれば魔力量がそこまでのハンデになることはなかったはずですから。
ですが、さっきもお話ししたように、軍部にはびこる魔力至上主義や、そもそも殿下のことを良く思わない貴族たちの妨害によって、殿下はその道に進むことができなかったんです」
なんというか、本当にメンドクサイよね。
王女という立場だと仕方ないことなのかもしれないけれど、そういった権力争いのようなものに巻き込まれてしまうというのは。
しかも、その後に目指そうとした外交官として各国を飛び回るという役回りも、王女という立場が邪魔をして実現することができなかったみたいだし。
「で、今のコーデリア殿下の肩書は魔の森の研究者ということになっている、と。
でも、王都に魔の森って存在しなかったよね?」
「はい、基本的に研究者は各地の魔の森へと研究のために出向くことになるらしいです。
ですが、第一王女殿下は基本的にそういった遠征には参加していないと聞いています」
つまり、籠の鳥になっているということ?
外交で各国を回れないというのはともかく、国内の各地に向かうくらいなら問題ないと思うのだけれど。
というより、それだと溢れの被害を受けた西部にまでやってきている今の状況が不思議に思えてしまう。
「まあ、殿下が各地に向かわれないのは、王太子殿下や第二王子殿下の補佐を務めているからという噂ですが」
「ん?研究者ではなかったの?」
「どうやら研究者というのは肩書だけという話です。
いえ、正しくは王太子殿下方の補佐をしつつ、王都でできる研究を行っているということらしいですが」
つまりは王太子や第二王子の補佐が本業で、研究はついでということ?
それならそれで、第一王女にそれっぽい肩書を付けた方が動きやすいような気もするけれど。
「申し訳ありませんが、正直、そのあたりのことは詳しくはわからないのです。
昔の噂はともかく、最近の話については、フェリシア様の婚約が決まってから旦那様やクラウス様から簡単に事情をお聞きした程度ですので」
まあ、そのあたりのことはそこまで気にしなくてもいいかな。
とりあえず、第一王女が今も昔も王国や王家のために行動しているというスタンスは知れたわけだし。
ただ、そうなると第三王子との婚約が仮初めのものだということを把握しているかどうかが気になってしまうね。
いやまあ、さっきの話を聞く限りだと、仮に知っていたとしても王国や王家のためになるなら普通に約束を反故にしてきそうな気もするけれど。
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