第28話 ドレスに関する打ち合わせ

 翌日、午後になって昨日と同じ部屋へと向かうと、既に第一王女が席について待っていた。


「申し訳ありません。

 お待たせしてしまいましたか?」


「いいえ、時間があったから彼女たちに付き合って先に来ていただけだから問題ないわ。

 まだ約束の時間になっているわけではないしね」


 こちらに気づいた第一王女が顔を上げ、こちらへと視線を向ける。

 その手には昨日の打ち合わせのときとは違うデザイン案があり、昨日の今日でデザイナーさんが新たなデザインを仕上げてきたことがわかる。

 というか、見たことのないデザイン案が1枚だけでなく複数枚あるのだけれど、冷静に考えて一晩でそれだけの数を仕上げてくるのはかなりすごいのでは?


 内心でそんなことを考えながら、ひとまずは第一王女の対面の席に着く。

 それに合わせるように第一王女が手に持っていたデザイン案をテーブルの上へと広げ、この日の打ち合わせがスタートした。




「では、今決めた通りに進めてくれるかしら」


 打ち合わせを締めくくる第一王女の言葉を聞き、ようやく終わったかという思いが込み上げてくる。


 正直、最初に広げられたデザイン案を見たときは、今日の打ち合わせはすんなりと終わるのではないかと思っていた。

 デザイン案が複数あるとはいえ、用意された中から1つを選ぶだけならすぐに終わるだろうと。

 実際、用意された4枚を順に確認しながら1つのデザインを選ぶところまではスムーズに進んだしね。


 ただ、そこからが想像以上に長かった。

 首元の細かなデザインから始まり、袖や裾に入れる細かな刺繍のデザインまで、本当に選ばれたデザイン案の細部を1つ1つ確認していくことになったから。


 で、そんなこんなで修正されたデザイン案が目の前にあるわけなのだけれど、正直、何がどう良くなったのかがイマイチわからない。

 いやまあ、一応は話し合いに参加していたから、どう修正されたかはわかっているのだけれどね。

 残念なことに、私のつたないファッションセンスだと、修正前と修正後のどちらも素晴らしいデザインであるということしかわからないという……。


 まあ、第一王女やエリー、デザイナーさんたちが最終的に満足そうにしていたから、より良いデザインになっているとは思うのだけれど。

 それに、私が出した裾のフリルを減らしてほしいだとか、腕周りをもう少しすっきりしてほしいだとかいう要望も取り入れてもらえたしね。



 ぼんやりとそんなことを考えている間に、撤収準備を終えたデザイナーさんたちが退室していった。

 それを見送り、新しく用意されたお茶へと手を伸ばす。


「これで、ようやくひと段落というところかしら。

 フェリシアさんには、急な話で苦労を掛けてしまって申し訳なかったわ」


 同じようにお茶を口にした第一王女が、カップをテーブルに戻してから口を開く。

 微妙に疲れたような表情をしているし、もしかしたら、第一王女にとってもこの話は急なものだったのかもしれない。

 というより、こちらに到着したその日に顔合わせからの打ち合わせを行って、その翌日の今日も同じように打ち合わせを行っているのだから、疲れているのも当然な気がする。


「とはいえ、まだドレスのことが片付いただけだから、フェリシアさんにはまだまだ協力してもらわなければいけないけれどね。

 とりあえず、少し休憩したら、予定通りに社交関連の色々について確認させてもらうことにするわ」


 一瞬、そんな風に第一王女のことを気に掛けるようなことを考えたけれど、どちらかというと自分の心配をした方が良いのかもしれない。

 ドレスのデザインの打ち合わせでは、自分のことなのに傍観者的な立ち位置でいれたけれど、この後の確認に関しては私が当事者として第一王女の審査を受けなければいけないのだから。



 なお、その後に行われた私の社交まわりに関する確認の評価は、“ギリギリ可”というものだった。

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