第26話 パーティーへの招待と第一王女(2)

 少し扱いに困る話を聞かされて動揺する私を待つように、第一王女がテーブルに置かれたお茶へと手を伸ばした。

 それを見て、こちらも気持ちを落ち着けるために目の前に置かれたカップを手に取る。


 そして、お互いにお茶を飲んで一息ついたところで、再び第一王女が口を開いた。


「さて、と。

 事情を説明するために少し不穏な話もしてしまったけれど、そのあたりのことはフェリシアさんが気にする必要はないわ。

 そういう面倒ごとは全てフィリップにやらせておけばいいから。

 ただ、代わりに婚約者としての役割をお願いしないといけないのだけれど」


「本来であれば、もう少し後になってからの予定だったんだけどね……。

 けれど、今の状況では予定を前倒ししてでもフェリシア嬢に婚約者として立ってもらわなければいけないんだよ」


 第一王女の言葉の後に第三王子がそう続け、後ろに控えていた侍女の1人に何かしらの合図を出す。

 すると、合図を受けた侍女が扉の向こうへと消え、入れ替わるように執事然とした男性が台車を押しながら入ってきた。

 台車の上に何やら豪華そうなアクセサリーが置かれているので、つまりはそういうことなのだろう。



「改めて、ということになるけれど――」


 室内へと運び入れられたそれに気を取られていると、すぐ隣から声が聞こえてそちらへと顔を向ける。


「フェリシア嬢。

 どうか、私と一緒に新年の祝賀パーティーに参加してもらえないだろうか?」


 そこには、膝をつき、いつもより煌びやかな雰囲気で私をパーティーへと誘う第三王子がいた。




「――はい、私で良ければ喜んで」


 一瞬言葉に詰まったものの、どうにか微笑みを浮かべて返事を返す。


 いや、いきなり謎に雰囲気を出して芝居じみた行動をとらないでほしいのだけれど。

 確かに、雰囲気を含めて様にはなっているけれど、それを出すのは絶対に今じゃなかった。

 というか、もしかして私って第三王子にこういうので喜ぶと思われているの?

 むしろ、あまりの温度差に引き気味なのだけれど。


 内心でそんなことを考えていると、今の様子を見ていた第一王女が口をはさむ。


「うーん、ダメみたいね。

 フィリップ、パーティーへの招待で引かれるとか、今まで一体何をしていたの?」


「いや、それはいきなりこんなやり方を指定した姉上が悪いのでしょう!?」


「でも、貴方、これまでフェリシアさんとろくに交流を持ってこなかったのでしょう?

 だったら、こういう機会でくらいきちんとしておくべきだと思ったのよ。

 想定外だったのは、予想以上に貴方のやり方がひどかったというだけで」


「……」


 目の前で始まった言い合いをぼんやりと眺める。

 というか、今の微妙な演技じみた誘い方は第一王女の発案だったらしい。


 いやまあ、確かに交流は足りないかもしれないけれど、もう少しやり方というものがあるような気がするよ?






「ごめんなさいね、アレな弟で」


 しばらく軽い口論が続いていたものの、どうやら第一王女が第三王子を言い負かしたらしい。

 微妙に不貞腐れた第三王子に代わって謝罪の言葉を伝えてきた。


「い、いえ、私は気にしていませんので」


「そう?まあ、いいわ。

 それで、変な感じになってしまったけれど、これが王都から運んできたアクセサリーになるわ。

 王家に伝わるもので、私も子供のころに使っていたものだけれど、今のフェリシアさんにちょうどいいと思うのよ」


 第一王女の言葉に合わせるように、台車を押してきた執事風の男性が台車の上からアクセサリーをテーブルの上へと移す。

 改めて確認してみると、どうやら運ばれてきたアクセサリーというのは、ネックレスとイヤリングがセットになったものらしい。


「とりあえず、フィリップとの関係を示すためにもネックレスだけは身に着けてもらうことになるわ。

 イヤリングに関しては、ドレスのデザインだとか全体のバランスを考えて身に着けるかどうかを決めてもらう形かしら。

 今の時期だとあまり飾り立てすぎるのもどうかと思うから」


「は、はあ」


 第一王女の言葉にあいまいな返事を返す。

 全体のバランスと言われても、まずはドレスを用意するところからになるからね。

 ただ、飾り立てすぎないという方針についてはありがたいかもしれない。

 私としても、あまりゴテゴテとアクセサリーを付けるというのは好みではないから。


 とはいえ、国王主催のパーティーに第三王子の婚約者として出席する以上、ある程度は着飾らざるを得ないとは思うけれど。



「フィリップ、貴方からフェリシアさんのドレスについて何か希望はある?」


「いえ、フェリシア嬢に似合っていればそれでいいかと。

 そういったものに男性側があまり口出しするものではないと思いますし」


 第一王女の言葉に一瞬身構えたものの、第三王子の答えを聞いて安堵する。

 仮に希望を出されたとしても、その希望に沿った準備ができるかどうかはわからないからね。

 まあ、アクセサリーを指定された時点で結構な難問になっている気はするけれど。


「何もないというのもどうかと思うけれどね。

 まあ、いいわ。

 だったら、もう行ってもいいわよ。

 後は、私たちで進めておくから」


「……はぁ、わかりました。

 フェリシア嬢、申し訳ないが、後のことは乗り気になっている姉上に任せさせてもらうよ。

 一応、王都からは用意できる限りの生地や素材を持ってきているはずだけど、もし他に必要になるものがあったら遠慮なく伝えてくれていいからね。

 できる限りの対応はさせてもらうから」


「?

 えーっと、どいうことでしょう?」


「うん?

 フェリシア嬢には、今から姉上とともにドレスのデザインなどを考えてもらうことになるからね。

 その際に、用意したものに不満があれば遠慮なく言ってほしいということだよ」


「えっ、ドレスも用意していただけるのですか?」


「……当然でしょう?

 まさか、アクセサリーを贈るだけ贈って、後はフェリシアさんに用意させると思っていたの?」


「……」


 予想外のことに言葉が詰まる。

 いやまあ、相手は王子様なんだから、ドレスの手配まで考えるのは当然かもしれない。

 でも、それだとなぜエリーがあんなに慌てることになっていたのだろう?


「フィリップ、貴方まさか何も伝えていなかったの?」


「い、いえ、事前に新年のパーティーに参加してもらうこととその時に身に着けてもらいたいアクセサリーを贈るという話は内々に伝えていましたよ」


「そうなの?」


「あっ、はい。

 パーティーとアクセサリーの話は侍女を通して聞いていました。

 ですが、ドレスの手配の話については聞いていなかったので、こちらでアクセサリーに合わせて用意するものだと……」


「はぁ、そんなわけないじゃない。

 いくら何でも、今みたいな時期にそのような無茶を押し付けるようなことはしないわ」


 私の返事を聞いて、第一王女が首を振る。

 いや、そんな常識でしょ?みたいな反応をされても、そういった事情に疎い私では判断できないよ。

 というより、エリーも同じように判断していたのだから、その常識は王族とか上級貴族の常識なのでは?

 ……あぁ、でも侯爵家なら上級貴族に含まれるのか。

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