第25話 パーティーへの招待と第一王女(1)

「えっ、王女様が来ているの?」


 エリーが帰ってきた翌日。

 薬草畑での作業を早めに切り上げて準備を進め、そろそろ移動しようかと考えているタイミングでそんなことを聞かされた。


「はい。

 どうやら、王都から装飾品を運んできた部隊の中に第一王女殿下もいらっしゃったようです。

 西部に来られた目的はわかりませんが、この後の第三王子殿下との面会時には同席されるとのことです」


「目的がわからないって、装飾品を運ぶことが目的だったわけではなく?」


「いくら王家所有のものだからといって、それでわざわざ西部まで足を運ぶ理由になるとは思えません。

 であれば、他に何か理由があると考えるべきです。

 まあ、素直に考えるのであれば、西部とフェリシア様の確認ということになるのではないですか?」


「……私ではなく、フィリップ殿下の様子を確認しに来た可能性もあるじゃない」


「それは確かにそうですが、その場合でも大して変わりはありませんよ。

 目的が第三王子殿下であったとしても、西部まで来てフェリシア様と会わずにお帰りになるとは考えにくいですから」


 まあ、そうだよね。

 既に西部にまで来てしまっている以上、私のことをスルーしてもらうというのは難しいと思うし。

 というか、そもそもこの後の面会に同席するらしいしね。


 ……とりあえず、無難な結果になることを祈りましょうか。






「すまない、待たせてしまったね」


 面会予定の部屋で第三王子を待っていると、そんな言葉とともに第三王子が部屋へと入ってきた。

 その後ろには事前に聞いていた通り、いつもの側近さん以外に女性の姿がある。

 あいにくと、貴族教育とはほぼ無縁な環境で育ったので顔を知らなかったのだけれど、おそらくは彼女が第一王女なのだろう。

 なんとなく第三王子と似ている気がするし。


 そんなことを考えていると、第三王子がそばまでやって来て一緒に入ってきた女性の紹介をしてくれる。


「さて、初対面になるだろうから紹介しておくよ。

 彼女はこの国の第一王女であるコーデリア姉上だ。

 今回は、王都から西部の視察とフェリシア嬢のサポートのためにやってきてくれたらしい」


「よろしくね、フェリシアさん。

 正直、こんな前線の砦に婚約者を呼び寄せるようなアレな弟で申し訳ないけれど」


「あっ、いえ。

 ――ではなく、お初にお目にかかります、フェリシア・ラビウスです。

 色々と至らぬ点があると思いますが、こちらこそよろしくお願いいたします」


 危ない。

 ついつい気を抜いていたから、普通に返してしまっていた。

 というか、普通にアウトよりな感じな気もしたけれど、とりあえずはスルーしてくれるのかな?


「まあ、立ったまま話をするのもなんですし、ひとまずかけましょうか」


 軽く笑った後に、そんな言葉をかけてくれたし。




「さて、できればフェリシアさんと色々なお話をしたいところだけれど、とりあえずは先に色々な説明からしておきましょうか。

 こちらにはしばらく滞在する予定だから、個人的なお話は後ほどゆっくりできるでしょうしね」


 席に着き、各人の前にお茶が用意されたところで第一王女が口を開く。

 というか、第一王女がこの席を仕切るんだね。

 第三王子とはそれなりに年齢が離れていそうだし、この2人だとそういう関係性になるのかな?


「まず、私がここに来た目的だけれど、フィリップが先ほど言った通り、西部の視察とフェリシアさんのサポートになるわ。

 どちらかというと、フェリシアさんのサポートがメインになるから、気になることがあれば気兼ねなく相談してね」


「あ、はい、ありがとうございます」


「それで、何のためのサポートかというと、既に聞いていると思うけれど、新年に王城で開かれる祝賀パーティーに出席してもらうことになったからそのサポートね。

 元々の予定だと、フェリシアさんは参加せずに済むはずだったけれど、色々と事情が変わってしまったから。

 なので、時間がないということもあって私がサポートする形になったというわけよ」


「あのー、なぜ私も参加することになったのでしょうか?」


「さっきも言ったけれど、事情が変わったのよ。

 当初の予定だと、この西部の復興は時間をかけてじっくりと進めていく予定だったわ。

 けれど、隣国の情勢が良くないみたいで、それに備えるためにも少し復興を急ぐことになったのよ。

 ただ、そのために西部に人や物を集めるのはいいのだけれど、フィリップが今まであまり表に出ていなかった影響で、その指揮に対する信頼や実績が不足しているのよね。

 だから、新年の祝賀パーティーで陛下が大々的に指揮を任せる形にする予定なの」


「つまり、フィリップ殿下の顔見せの場に婚約者が不在というのは問題だから、私も参加することになったということですか?」


「そうなるわね。

 元々はフィリップも関係者に顔を見せる程度にしか出席する予定がなかったから、フェリシアさんが不参加でも問題なかったのだけれど、さすがに周囲に顔見せするときに婚約者の姿が隣にいないというのは面倒になりかねないから」


 そういう事情であれば、さすがにパーティーへの参加を拒否するのは難しいのかな。

 そもそも、こういうときのための婚約者役なのだし。


「ちなみに、隣国の情勢が良くないというのは、具体的にどういう状態なのでしょうか?

 今のお話だと、年が明けてから本格的に西部の復興に力を入れだすという形になると思うのですが、それまでは特に危険はないということですか?」


「うーん、それについてはなんとも言えないのよね。

 そもそも、隣国に潜ませていた密偵たちとの連絡が途絶えたから、万が一に備えようという話だし。

 ただ、連絡が途絶える前に、隣国が溢れによってかなりの被害を受けたという報告は受けているから、おそらくは年明けくらいまでは隣国も目立った行動は取れないだろうという判断はされているわ。

 それに、大々的に力を入れだすのが年が明けてからというだけで、既にこちらに対する人員の追加は始まっているし、まったく備えていないというわけではないわよ」


 溢れの被害で情勢が良くないという状況になっているのであれば、いきなり何かしてくる可能性もありそうな気もするけれどね。

 でもまあ、国の上層部が大丈夫だと判断しているのであれば、大丈夫なのかな。


 というか、隣国にいる密偵との連絡が途絶えたという情報を私が聞いてもいいの?

 しれっと話に出されたけれど、たぶん外部に漏らしたらダメな情報だよね!?


「心配しなくても大丈夫よ。

 あの国のイカレ具合は周囲も良く知っているし、密偵との連絡が途絶えるのもそう珍しいことではないから。

 おそらく、今回もこちらとの連絡を取るのが難しい状況になって潜んでいるだけだと思うし」


「とはいえ、軽々しく外部に漏らせる情報ではないことは確かだから、フェリシア嬢も取り扱いには気を付けてほしい」


「あっ、はい」


 私が、というかおそらく後ろに控えるエリーもだけれど、デリケートな話を聞かされて青くなっているのを見て2人がそんなフォローをしてくれる。

 けれど、できることならそういった話から距離を置けるような立場でいさせてほしかったよ。

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