第24話 エリーの帰還と報告

 翌日、種まきを終えた薬草畑の確認へと向かう。

 とはいえ、さすがに一晩経った程度では特に何の変化も見られなかった。

 なんとなく、魔道具の効果や周囲の魔素濃度の影響で芽くらいは出ているかと思っていたのだけれど。


「まあ、こっちには特に魔法とかをかけていないからね」


 そんなことをつぶやきつつ、念のために薬草畑全体を確認して回る。

 結局、何の問題も見つからなかったので、午前の残りの時間はいつも通りオニキスやスノウたちとの交流の時間となった。






 午後になり、屋敷の作業部屋で魔法陣に関する研究をしているとエリーが帰って来たとの報告を受けた。

 なので、エリーからの報告を受けるために自室へと戻ることにする。

 一応、この作業部屋でも話くらいは聞くことができるけれど、さすがにゆっくりと話を聞くことができる環境ではないからね。



「ただいま戻りました。

 長くお側を離れることになり申し訳ありません」


「お疲れ様、エリー。

 側にいてもらえなかったのは仕方ないわよ。

 今は新年のパーティーの準備の方が優先なのだから」


 自室へとやって来たエリーを迎え入れ、ここ数日エリーの代わりに付いてもらっていた侍女にお茶を入れてもらう。

 そうしてエリーの分に加え、新しく入れなおしてもらった自分のお茶に手を付けてから口を開く。


「それで、フィリップ殿下が砦に戻られるのに合わせて帰ってきたと聞いたけれど、街での作業はどうだったの?」


「……申し訳ありません。

 できる限り手は尽くしたのですが、好ましい回答を得ることができませんでした」


 ……まあ、残念ではあるけれど仕方のない結果なのかな。

 そもそも急な話だったし、復興途上の街で依頼を受けてもらえるか疑問ではあったからね。

 ただまあ、街で依頼を受けてもらえなかった以上、別で依頼を受けてもらうところを探さなければいけないという問題が発生するわけだけれど。


「ちなみに、それは全滅だった感じなの?」


「そうですね。

 屋敷の改装時に依頼した商会はもちろん、商業ギルドを通して他の商会とも面会を取り付けてもらったのですが、そちらも全滅でした」


「……そう。

 念のために確認したいのだけれど、父であるラビウス侯爵には連絡を入れているのよね?」


「それはもちろんです。

 そちらに関しては、念のためにラビウス侯爵領の領都にある仕立て屋を押さえておいてもらうことになっています。

 ただ、距離の問題もあるので本当の最終手段としたかったのですが……」


 まあ、調整なりで試着などが必要になると考えると、近くで引き受けてもらう方が良いだろうしね。

 とはいえ、近くの街が全滅だった以上、頼りはラビウス侯爵領だけということになるのだろうけれど。


「なるほどね。

 でもまあ、ラビウス侯爵領でドレスを仕立ててもらうことが可能なのであれば、最悪の事態は回避できるのかしら」


「それはそうなのですが、ラビウス侯爵領で仕立てた場合、フェリシア様に合わせて調整するための時間を十分に取れないという問題が出ますので。

 それを考えると、やはり近くで仕立ててもらうのが一番だったのですが……」


 まあ、完璧を目指すのであればそうするのが一番なのでしょうけれどね。

 ただ、それができないから今困っているわけで。

 私だって、似合わないドレスで参加したいと思っている訳ではないし、きちんと準備できるならそうしたいよ。


「……そうね、ラビウス侯爵領からは無理でも王都から呼び寄せることは出来ないの?

 王都からであれば、まだどうにかなりそうな気もするのだけれど」


「王都からですか……。

 確かに、王都からであればこちらに呼び寄せての対応も可能かもしれませんね。

 とはいえ、問題はこの無茶な依頼を受けてくれるところがあるかどうかですが……。

 そうですね、私では王都の事情がわかりませんので、ひとまず提案して確認してみることにします」


「うん、可能性があるなら一応確認しておいて。

 ところで、フィリップ殿下が砦に戻られるそうだけれど、いつ頃お戻りになるかはわかっているの?」


 ドレスの問題に対する話がひと段落したところで、話題を明日のことに切り替える。

 正直、薬草畑に対してお世話が必要だとは思っていないけれど、オニキスたちと遊ぶ時間についてはいつも通り確保したい。


「予定では明日の午前中にお戻りになられるとのことです。

 ですので、殿下との面会については明日の午後に予定されています。

 また、王都から装飾品を運んできた部隊と一緒に砦に戻られるそうですので、その際に装飾品とともに新年のパーティーの話が殿下からあるのだと思います」


「えーっと、もしかして改めて殿下からパーティーのお誘いを受けることになるの?」


「そのはずです。

 さすがに招待状を介してのお誘いにはならないと思いますので」


 ああ、そうなんだ。

 なんとなく、エリーから話を聞いていたから、装飾品に関してもエリーを介して贈られてくるのかと思っていたよ。

 いやまあ、今の対外的な関係を考えれば、顔を合わせる機会があるのであればそこで渡すのが当然なのかもしれないけれど。

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