第23話 薬草畑の準備を終えて
「……ふぅ、これで終わりね」
作業を終えたところで一息つく。
薬草畑の土づくりがひと段落したので、薬草の種をまくという次の工程に移ったのだけれど、思いのほか時間がかかってしまった。
まあ、専門の農家ほどではないというだけで、個人が管理する薬草畑としてはそれなりの広さになっているから仕方ないのだろうけれど。
とはいえ、これでひとまずは第三王子から求められていた最低限の復興協力は果たせるはず。
特に問題が起きない限り、後は設置した魔道具がいい感じに薬草を育ててくれる予定なのだから。
「これで後は簡単に薬草畑の様子を確認しつつ、砦の屋敷でのんびり過ごすだけ――。
というはずだったのだけれどね」
そんなことをつぶやき、アッシュとアクアが元気に遊んでいる放牧地へと目を向ける。
オニキスたちのために新しく放牧地を整備する話については、先日、エリーが第三王子の側近さんに話を通してくれたおかげで、問題なく許可をもらうことができた。
なので、放牧地自体に何か問題があるというわけではない。
問題があるのは、その許可をもらうときに側近さんからエリーに伝えられた話の方だ。
「さすがに、いきなり国中の貴族が集まる新年のパーティーに参加しろというのはね……。
そういう可能性があると聞いていたとはいえ、ちょっと無茶ぶりが過ぎるよ」
確かに、王家が主催するような断りにくいものについては参加する必要があるという話は聞いていた。
けれど、その場合でも、もっと身内が中心となるようなカジュアルな場から始めるという話だったはずなのに。
「まあ、さすがに何らかの事情があるのだとは思うのだけれど」
とはいえ、仮に事情があったとしてもそれに振り回されるこっちはたまったものではない。
特に、その準備に奔走させられているエリーなんかは怒ってもいいのではないだろうか。
「……やっぱり、向こうでの交渉は難航しているのでしょうね」
そんな風に、昨日から準備のために旧領都へと出向いているエリーのことを思う。
正直、ドレスの仕立てにどれくらいの時間がかかるのかは知らないけれど、おそらく残り3ヶ月というのはかなり厳しい期間なのだと思う。
まあ、これがラビウス侯爵領の領都などであれば、まだ、侯爵家の伝手や力を使える分どうにかなったかもしれない。
けれど、今いるのは西部の旧ガルディア辺境伯領だ。
復興の指揮を執る第三王子の後見を務めるラビウス侯爵家であっても、どこまで影響力を発揮できるのかはわからない。
「まあ、そのあたりのことはエリーに任せるしかないのだけれど。
……というか、もしかして元凶である第三王子にどうにかするようにお願いするべきなのかな?」
エリーによると、何やら王都から王家が所有しているアクセサリーを取り寄せているという話だったし。
であれば、そんな中途半端なことをして投げっぱなしにしてくる第三王子に責任を取ってもらうというのは、普通に悪くない考えな気がする。
というより、そもそもの話として最初から第三王子がどうにかして然るべきことなのでは?
「……とはいえ、その第三王子がまだ戻っていないから、お願いのしようがないのよね」
エリーはエリーで旧領都の方に行ってしまったけれど、第三王子もまた新しく整備するという拠点から帰ってきていないらしい。
エリーが側近さんに強く要求してくれたらしいので、近いうちに帰ってくるはずではあるのだけれど。
「まあ、これ以上のことはどちらかが帰ってこないことにはどうしようもないかな」
自分にも出来ることはないかと考えてみたけれど、結局はそういう結論に至ってしまった。
そもそも、基本的に私が動くよりもエリーが動いた方がスムーズに事が運ぶと思うし。
可能性があるとすれば、エリーが直接交渉するのが難しい第三王子の相手くらいだったのだけれど、それも相手がいないことにはどうしようもない。
「とりあえず、明日からは予定通り砦の屋敷で魔法陣の研究かな。
まあ、午前中は薬草畑の確認がてら放牧地でオニキスやスノウたちと遊ぶつもりではあるけれど」
最後にそんなことをつぶやき、放牧地でのんびりと過ごしていたオニキスたちと砦へ戻ることにする。
残念なことに、エリーによると第三王子サイドは私が魔の森に入ることに否定的らしく、予定していたスノウたちの狩りに同行する計画については保留にされてしまった。
なので、しばらくは薬草畑へ出かける以外は砦の屋敷で引きこもるような生活になりそうだ。
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