閑話 側近たちの話し合い

「新しく放牧地を整備したい、ですか。

 つまり、新しく土地を利用する許可が欲しいということでしょうか?」


「いえ、既に放牧地の整備には手を付け始めていますので、利用する土地が広くなったことの報告になります。

 事後報告となってしまい、申し訳ないのですが……」


 フェリシアが放牧地を整備することを決めた翌日。

 第三王子の執務室にやって来たエリーが、不在であった第三王子の代わりにハーヴィーへとそのことを報告していた。


「そうですか。

 事前に相談してほしかったところですが、こちらとしてもラビウス侯爵令嬢に対するフォローが行き届いていない自覚くらいはありますからね。

 新しく利用する場所に問題がなければ、そのまま自由にしてもらっても構わないでしょう」


「ありがとうございます。

 場所に関しては、最初に候補地の案内をしていただいたときに注意を受けていますので問題ないと思います」


「まあ、そこについてはあまり心配していませんでしたけどね。

 もし問題がある場所であれば、既に監視の兵たちから報告が上がってきているでしょうし。

 ところで、この放牧地の件以外で何か要望があったり、問題になっていたりすることはありますか?

 せっかくの機会なので、他にも何かあるのであれば聞いておきたいのですが」


 放牧地の件については問題ないだろうと判断したハーヴィーが、話題を変えてエリーへと質問を投げかける。


 彼としても、侯爵家のお嬢様が今のような状況で何の不満も訴えずに粛々と行動しているというのは不気味に感じるところがあった。

 なので、不気味なくらいにおとなしいお嬢様がいきなり変に爆発するくらいであれば、今のうちに不満なり何なりを解消しておきたいと考えているのだ。


 まあ、実際には、フェリシアが周囲に対して特に期待していなかったせいでそこまで不満に思っていなかったりするし、何なら今の放置状態を歓迎しているくらいなのだが。



「そうですね、今のところは他に要望や問題などはありません。

 従魔たちに自由に狩りをさせることができないという点については不満に思われているようですが、さすがにこれに関しては仕方のないことだと理解していただいていますので。

 ただ、これは要望や問題というわけではありませんが、第三王子殿下がどの程度の水準の復興協力を求められているのかという点については気にされていましたね」


「なるほど。

 従魔たちの狩りについては自由にしてもらっても構わないですが、まあ、不幸な事故を警戒するのであれば今の形での狩りを続けてもらう方が良いでしょうね。

 それと、お願いしている復興協力についてですが、これについては特に求めている水準というものはありません。

 何しろ、こちらとしてもどれくらいのことをお願いしていいのかわからない状況でしたから。

 ですので、今準備してもらっている薬草畑から薬草を提供していただくだけで復興協力については十分だと考えています。

 ですが、今後は復興の協力ではなく、殿下の婚約者としての協力をお願いすることが多くなるかもしれません」


「殿下の婚約者としての協力ですか?」


「ええ、そうです。

 少しすれば正式な連絡が行くと思いますが、新年に開かれる王城でのパーティーに殿下の婚約者として参加してもらうことになりそうですから」


 その言葉を聞いて、エリーが表情を変える。

 ハーヴィーの言う新年のパーティーまで、およそ3ヶ月半。

 移動の時間や王都での準備を考えると、おそらくこちらでの準備にかけられる時間は3ヶ月あるかどうかだろう。


「……念のために確認させていただきますが、そのパーティーとは王城で開かれる国中の貴族が一堂に会するパーティーで間違いないですか?」


「はい、そのパーティーです。

 おそらく、時期的には新しく整備する拠点での復興作業がひと段落する頃ですので、その成果をもって殿下が陛下からお言葉をいただくことになると思います。

 ですので、そのときに婚約者として殿下の隣に立っていただくことになる予定です」


「っ」


 話をするのが遅すぎるっ!!

 エリーが、口にしかけたそんな言葉を無理やり飲み込む。


 一応、3ヶ月というのはドレスを仕立てる期間として不足しているというわけではない。

 ……ここが王都やラビウス侯爵領の領都であれば。

 けれど、ここが復興途上にある旧辺境伯領の地である以上、はっきり言って3ヶ月という期間は短すぎる。


 そんなことを思っていたエリーに対し、ハーヴィーがさらに続ける。


「そうそう、そのパーティーに参加してもらうにあたり、殿下がラビウス侯爵令嬢へ何らかの装飾品をお贈りするそうです。

 ですので、申し訳ありませんが、ドレスもそれに合わせてもらう形になると思います」


「は?

 ……それはどのようなものなのですか?

 というより、その装飾品を殿下はいつ頃フェリシア様に贈られるのですか?

 贈られる装飾品に合わせるといっても、新年のパーティーまで時間がありません!

 早急に用意して下さいっ!!」


 ただでさえ時間がないというのに、さらにドレスのデザインをプレゼントする装飾品に合わせろというハーヴィーに対し、エリーが勢いよく詰め寄る。


「い、いや、王家が所有しているアクセサリーということは聞いていますが、どういったものかまでは……。

 一応、パーティーに参加してもらうことを決めた時点で王都から運ばせているので、数日以内には届くはずです」


「数日後ですか……。

 申し訳ありませんが、届き次第すぐに殿下からフェリシア様にその装飾品を贈っていただけるように手配していただけますか?

 はっきり言って、ドレスを仕立てるための時間がありませんので」


「え、ええ、わかりました。

 殿下にはそのようにお伝えしておきます」


 ハーヴィーが気圧されたようにそう答えると、エリーは退室の挨拶もそこそこに、飛び出すように部屋を出ていった。

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