第19話 今後の方針と畑の様子

「というわけで、これからは開き直って気ままに過ごしてみようと思うのよ」


「……突然どうされたのですか?」


 朝食をとり終え、いつものお茶を用意してもらったところでそんなことを口にすると、エリーが訳がわからないという感じで戸惑いの声を返してくる。

 まあ、起きてからずっと考えていたアレコレに関する結論だけをいきなり口にしたわけだからね。

 エリーが戸惑ってしまうのも無理はない気がする。


「昨夜の話について、起きてから色々と考えていたのよ。

 それで、そういえば西部に出発する前は、薬草畑だけ作って最低限の協力だけで済ませようと考えていたことを思い出したの。

 で、今はそれが許されるような状況になっているみたいだから、だったら開き直って最低限の協力だけで後は気ままに過ごせばいいのではないかと思って」


 そもそも、私の本来の役目は第三王子の正式な婚約者が決まるまでのつなぎというものだったはずだ。

 そして、西部での復興協力というのも、第三王子の婚約者として認められるための条件にそれがあったから行うというだけで、当初は第三王子に追い返されない程度の協力だけで済ませようと思っていたはず。


 なのに、気づいたら可能な限りの復興協力を行わないといけないという思考になっていたのよね。

 そんな必要がないどころか、下手に目立つような成果を上げると面倒になるかもしれないというのに。

 西部に到着してすぐに復興が遅れているという話を聞いてしまったせいで、余計な責任感を持ってしまったのかもしれない。



「そうですか。

 フェリシア様がそう望まれるのであれば、それで構わないと思います。

 復興協力で成果を上げた方が第三王子殿下の心証は良くなると思いますが、フェリシア様はそれを望まれないでしょうしね」


「ええ。

 変に殿下に気に入られて、婚約者はコイツのままでいいと思われてもいけないから」


 そういう意味では、放置気味の今の状況は望ましい状況であるはずなのだ。

 それなのに、なんとなくモヤっとするのは、こちらに来てからの扱いに不満があるからなのかな。


 放っておいてほしいと思っているはずなのに、実際に雑に扱われると不満に思うなんて、我ながら面倒くさい奴だね。






 エリー相手に今後の方針を話した後、のんびりとお茶を楽しんでから昨日行った土づくりの経過を確認するために畑へと向かう。


 まあ、いくら魔道具を動かしているからといって、一晩程度では大した変化はないと思うけれど。

 なので、今日の作業としては、魔道具が問題なく動作していることの確認と、土を混ぜ返す作業で終わりになると思う。


 そうなると、午後からは時間的な余裕ができるはずなので、何かしらの予定を考えておくべきなのかもしれない。

 まあ、復興協力を最低限にするのであれば、今後はずっと似たようなスケジュールになるだろうから、午後からゆっくりと考えればいいような気もするけれどね。




「とりあえず、魔道具の方は問題なく稼働しているね」


 畑へと到着し、まずは設置している魔道具の確認へと向かう。

 結果、魔道具は問題なく稼働していた。


「まあ、さすがに一晩で何か問題が起きてもらっても困るしね」


 というより、薬草栽培に関しては魔道具頼りになることが決まっているので、その魔道具に何かあると正直かなりマズい。

 一応、周囲の魔素濃度を考えると、魔道具なしでも薬草は育てられると思うけれど、さすがに魔道具なしで完璧に育てることができるという自信はない。



「で、次はこっちね」


 そう言って、今度は薬草畑の敷地内へと目を向ける。


「……やっぱり、畑の土が完全に馴染んでいるように見えるね」


 遠目からではわからなかったけれど、薬草畑に近づいて土の状態が見えるようになってからは薄々そんな気がしていた。

 で、実際に手で土をすくってみると、昨日混ぜたばかりのたい肥が完全に馴染んでいるように見える。


「これは魔道具がすごいの?

 それとも、昨日の最後のおまじないでやっちゃった感じ?」


 そう言いつつ、多分おまじないの方の効果なのだろうな、と思う。

 いくら魔法のイメージが固まっていなかったとはいえ、発動のために持っていかれた魔力量が多すぎたから。

 結果、不足していたイメージを有り余る魔力で補うことで、一晩で土が馴染むということになったのだと思う。


「正直、最低限の協力だけで済ますと決めたところだから、薬草畑の準備が早まることに何のメリットもないのよね」


 まあ、メリットがないだけであればまだマシなのだけれど、荒れ地から畑を作るための土づくりを2、3日で終わらせることができるという事実を知られるのは微妙な気がする。


「……とりあえず、残りの作業に関してはおまじないを封印することにしましょう」


 一応、まだ肥料を混ぜ込む作業も残っている。

 なので、そちらの作業に時間をかければ、土づくりをすぐに終わらせることができるという事実がバレない可能性もある。


 まあ、昨日の作業からこの薬草畑のことを監視されていた場合には無駄な抵抗ということになるだろうけれど。

 ただ、砦からも遠目に確認できる距離にあることで、逆に詳しい確認はされていないのではないかという気もする。


「どちらにせよ、まずは本当に敷地全体の土が馴染んでいるかの確認からかな。

 おまじないをかけたこの場所はともかく、本当に敷地全体に効果が発揮されているかはわからないし」


 そう口に出し、確認のためにも、まずは予定通りに敷地全体の土を混ぜ返してみることにした。




 結局、おまじないは敷地全体に効果をもたらしていた。

 で、その事実を確認するために土を混ぜ返したことで、予定していた作業も片付いてしまった。


「……思っていたのとは違うけれど、とりあえず帰ろうかな」


 たい肥が既に馴染んでしまっているので、一応、次の作業に進むこともできる。

 けれど、少しでも先延ばしにできればと、肥料の混ぜ込み作業を翌日に回すことに決めた。

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