第17話 晩餐という名の話し合い

 砦内の屋敷へと戻り、用意されていたお風呂に入って汚れを落とした後、エリーの手によって身支度を整えられて晩餐の席へと向かう。


「それにしても、何を話せばいいのかしら?

 前回から大して時間も経っていないし、話せるような話題なんて特にないのだけれど」


 晩餐の席へと向かう道中、ついついエリーに対して愚痴をこぼしてしまう。

 これまでの晩餐でもそうだったけれど、正直、第三王子相手に何を話せばいいのかわからない。

 あいにくと、こちらはお貴族様や王子様を相手に話ができるような技術を持っていないのだから。


「心配せずとも、基本的に第三王子殿下がリードしてくれるはずです。

 これまでもそうだったではありませんか」


「それはそうだけれど、こちらから何も話題を提供しないというのもどうなのかと思って」


「確かに女性側からも適度に話題を提供した方が良いとは思います。

 ですが、無理をしてまですることではないかと」


 ……まあ、確かにそうかもしれない。

 無理やり興味のない話を持ち出して場を白けさせるよりは、素直に相手に任せたほうが無難だろうし。

 それに、第三王子であれば晩餐の場でホストとして相手をもてなす術もバッチリだろうしね。


「そうね、素直に殿下にお任せすることにするわ」


「そうしてください。

 あの方もあまり人づきあいが得意ではないと聞いていますが、王族として招待客をもてなすための教育は受けられていると思いますので」


 とりあえず、場をもたせるのは第三王子様にお任せすることにしましょう。

 それで、もし薬草畑の話とかになったら、今後の作業で必要になりそうな諸々を確認させてもらうということで。






「そういえば、さっそく薬草畑の準備に取り掛かってくれたようだね。

 報告を聞いて、砦の外壁から遠目に確認させてもらったよ。

 それで、既に荒れ地の中に畑ができているような状態に見えたのだけど、実際のところ進捗はどうなのかな?」


 晩餐が始まり、無難に砦に移ってからの生活について話したところで第三王子が切り出してきた。

 なんとなく簡単な近況報告くらいで終わるのかと思っていたけれど、どうやらもう少し踏み込んだ話もすることになるらしい。


「そうですね、ひとまず今日の作業で予定地の土を耕して土づくりを始めるということを行いました。

 この後もたい肥が馴染むのを待ったり、肥料を加えたりということがあるので、実際に薬草を植えることができるのはしばらく経ってからになります。

 もしかして、急ぎで薬草が必要になるような状況なのですか?」


 当たり前だけれど、いくら魔道具があるからといって、薬草を植えてすぐに収穫できるようになるわけではない。

 なので、もしすぐに薬草畑から薬草が手に入ると考えているのであれば、考えを改めてもらう必要がある。


「いや、今すぐに薬草が必要というわけではないよ。

 さすがに薬草畑を作ってすぐに薬草が手に入るとは思っていないしね。

 ただ、しばらくしてからの話だけど、東にある壊滅した町や村に新しく拠点を整備する計画が立ち上がっているんだよ。

 だから、その時にフェリシア嬢の用意する薬草畑のことを考慮に入れても大丈夫なのかと思ってね」


「拠点を増やすのですか?」


「その予定だね。

 今はこの砦を拠点にして魔の森やその周辺を巡回しているけど、領内の北部すべてをカバーしきれているわけではないんだよ。

 一応、今でも野営することで巡回範囲を広げているんだけど、巡回できているのは北部の西半分がせいぜいといったところなんだ。

 だから、北部の中央や東側にも拠点となる場所を整備して、安定して巡回できる体制を作ろうと考えているんだよ」


 まあ、街道を馬車で移動しても数日はかかったのだから、魔物を警戒しながらの巡回だと北部全体をカバーするのは難しいか。

 泊りがけで巡回すれば出来なくはないのだろうけれど、そのやり方だと危険も高くなるだろうし、効率も落ちる気がする。


「ですが、この砦からの巡回でカバーできない場所については、その近くの町や村を拠点にすれば良いのではないですか?

 北部の魔の森に近い地域は壊滅的な被害に遭ったと聞いていますが、魔の森から距離が離れた地域であれば、被害も小さかったと聞いていますし」


「確かに巡回場所に近い町や村から巡回の兵を出してもらうのが一番なんだけどね……。

 残念ながら、あちらも巡回に回せるほど人員に余裕があるわけではないんだよ。

 一応、最低限の巡回はできているみたいだけど、魔の森近くまで巡回して魔物を間引くというところまでは手が回らないみたいだ。

 そういう状況だから、少し後にやってくる予定の追加人員を中心に、北部の東側に新しく拠点を整備しようと計画しているんだよ」


 人員不足か。

 人も物も足りていないとは聞いていたけれど、各地の巡回も満足にできないほどとはね。

 まあ、今の話だと追加人員がやってくるみたいだし、少しはマシになるのかな?


「ちなみに、その追加人員はいつ頃やってくるのですか?」


「予定では1ヶ月後までには、という話だね。

 おそらく、今もラビウス侯爵がせっせと追加人員の調整を進めてくれているはずだよ」


 ああ、そういえばそのあたりの調整は父であるラビウス侯爵に丸投げしていると言っていたっけ。

 いや、あれは婚約者周りの話だけだっけ?


「わかりました。

 ですが、1か月後であっても、薬草畑で薬草を用意するのは難しいと思います」


「うん、それは大丈夫だよ。

 さっきも言ったようにすぐに薬草が手に入るとは思っていないから。

 ただ、今後は新しい拠点の方にも薬草やポーションを回すことになるからね。

 その分を少しでも補ってもらえればと思っているんだよ」


「そういうことですか。

 であれば、どこまでお力になれるかわかりませんが、できる限りのことができるように頑張りたいと思います」


「まあ、無理のない範囲で構わないからね。

 さすがに、フェリシア嬢の用意してくれる薬草だけに頼るわけではないから」


 まあ、それはそうだろうね。

 いくら魔道具があるからといって素人の少女が用意した薬草畑を過度にあてにされても困る。

 もし、本気でそんなことを考えているのであれば、トップとしての資質を疑うくらいだよ。

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