第16話 土づくり(3)

「ひとまず、今日の作業はここまでかな?」


 薬草畑の予定地の四隅に農業用魔道具を設置し、無事に起動したことを確認してつぶやく。


 まだ日が落ちるまで時間があるけれど、今日の夜は第三王子との晩餐の予定が入っている。

 さすがに畑仕事をした後、そのまま向かうわけにもいかないし、準備のための時間を考えるとそろそろ屋敷に戻らなければマズい。


「でも、最後におまじないがわりの魔法を軽くかけておこうかな」


 ふと思いついてそんなことを口にする。


 午後の作業では、細かくした土に対してたい肥を混ぜ込むという作業を行った。

 それが終わったところで魔道具を設置したのだけれど、改めて確認する敷地内の土は微妙な状態のままだ。

 まあ、混ぜてすぐに効果が出る類のものではないから仕方ないのだろうけれど。


「とはいえ、土づくりに長々と時間をかけるのもね。

 まあ、あちらとしてもすぐに薬草ができるとは思っていないでしょうけれど」


 正直、これに関しては私の気持ちの問題でしかない。

 わざわざやってきた場所で、何もすることなくただ待つだけという時間が気まずいというだけだから。


 ただ、この後にまた肥料を混ぜてからの待ち時間ができることを考えると、やれることはやっておきたいというのも確かではある。


「まあ、魔道具の効果でも土づくりは進むと思うし、本当におまじないくらいにしかならないとは思うけれどね」


 そんなことを口にし、しゃがみこんで地面に手をつく。


「……あれ?

 発酵を促せばいいんだっけ?それとも熱を加えるようなイメージ?」


 なんとなく、これはたい肥を作るときの話だった気がする。

 というか、土づくりに関してふわっとした知識しかないから、効果的なイメージを思い浮かべることができない。

 私の中の土づくりは、たい肥や肥料を混ぜて放置すればいいという程度の知識でしかないのだから。


「……まあ、おまじないだしね。

 少し不安だけれど、全体にふわっと効果が出るようなイメージで魔法をかけておきましょう」


 そうつぶやき、目をつむって魔力を練り始める。

 イメージするのは、土がふわふわな状態になるようなイメージ。

 かなりふわっとしたイメージだけれど、まあおまじないみたいなものだし、効果があればラッキーくらいに思っておきましょう。



「――あっ」


 練り上げた魔力を予定地全体へと広げ、魔法を発動させようとした瞬間、体内からさらに魔力が引き出される感覚を感じた。


 失敗したかもしれない。

 さすがに魔法のイメージがテキトーすぎたのか、予想以上に魔力を持っていかれている。


「くっ」


 どうにか引き出される魔力を間に合わせるように、気合で魔力を練り続ける。

 一瞬、魔力の供給を止めて魔法を不発させるということも考えたけれど、反射的に魔力を供給した流れで、そのままどうにか魔力を間に合わせ続ける。

 というか、思ったよりも魔力を持っていかれたので、魔法を不発させてここまで費やした魔力を無駄にしたくない。


 そんな思いで魔力を供給し続け、どうにか魔法を発動させることができた。



「……ふぅ、ちょっと油断しすぎたわね」


 正直、イメージが足りていないことで魔法が発動しない可能性は考えていたけれど、まさか、過剰に魔力を持っていかれて無理やり魔法を発動させられるとは思っていなかった。

 というより、本当におまじないのつもりだったから、ここまでしっかりと魔法を使うつもりもなかったのに。



「大丈夫ですか?

 かなりの魔法を使われていたようですが」


 しばらくその場で休んでいると、動かない私を心配したのか、アドルフが近くへとやってきた。


「ええ、大丈夫よ。

 ちょっと、魔力を使いすぎて休んでいただけだから」


 そう言って、地面から立ち上がる。

 この後も予定が詰まっているし、そろそろ動かないと。


 そんなことを考えつつ、魔法を発動させた後の予定地を見つめる。

 けれど、予定地には特に目立った変化は見られなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る