第15話 土づくり(2)
「本当にただの荒れ地なのよね」
杭で囲まれた敷地内へと足を踏み入れ、改めて薬草畑の予定地となっている土地を眺める。
敷地内の土地は、まばらに雑草が生えている場所はあるものの、基本的には土がむき出しとなっている場所が多い。
特に邪魔にもなっていない雑草の処理を砦の兵たちがわざわざやっているとは思えないので、もともと草が生えにくい場所なのか、あるいは溢れの戦闘で雑草が焼き払われたりしたのか。
前者だと土の質が心配になるから、後者であってほしいのだけれど、こういう雑草ってどれくらいで生えるものなのかしらね?
そんなことを考えながら地面にしゃがみこみ、今度は実際に手で触れて土の状態を確認してみる。
「……やっぱり、見た目通りの固い土なのよね」
前回来たときにも確認してわかってはいたけれど、改めて確認した土の状態に少し不安になる。
覚悟していたとはいえ、辺境の町の屋敷の薬草畑の土とは比較にならないくらいひどい状態なのだから。
「まあ、土の質が悪くても魔道具がどうにかしてくれると信じましょう」
とりあえず、不安な思いをごまかすようにそんなことを口にする。
とはいえ、ただの気休めというわけでもない。
実際、あの魔道具によって数十年、下手すれば百年以上にわたって薬草畑の土が薬草栽培に適した状態に保たれていたことは事実なのだから。
「これから薬草畑の予定地を魔法で耕してみるわ。
一応、危険はないと思うけれど、敷地の中には入らないでね」
土づくりを始めるにあたり、念のために周囲で護衛してくれているアドルフたちに声をかける。
彼らの反応を確認し、オニキスたちも距離を取っていることを確認してから作業に入った。
「とりあえず、最初は狭い範囲で試してみる感じかな」
そう口に出し、地面に両手をつける。
その動作から、ふと両手を叩いてから地面に手をつくアニメのワンシーンを思い出したけれど、頭を振ってその映像をかき消す。
初めて使う魔法を発動させるときに、余計なイメージを持つのは失敗のもとだ。
一度、頭の中をクリアにしてから、改めて魔法を発動するためのイメージを固めていく。
イメージするのは、地上から数十センチの土を細かく砕く魔法。
魔法であれば、荒れ地の土をいきなり薬草栽培に適した土に作り変えるようなこともできなくはない。
けれど、さすがにそこまでしっかりとした土のイメージを持っているわけではないので、いきなりそれを実行することはできない。
まあ、仮にイメージできたとして、今の土の状態から薬草栽培に適した土に作り変えるためにどれだけの魔力を持っていかれるかわかったものではないのだけれど。
なので、まずは範囲内の土を細かく砕くこと。
そのイメージを固めつつ、練り上げた魔力を地面へと浸透させていく。
「――砕けてっ」
そんな言葉とともに魔法を発動させる。
瞬間、周囲の魔力を浸透させた地面の土が細かく砕かれた。
「……どう考えても、薬草栽培に適した土ではないよね」
細かくなった土をすくい上げて観察してみるけれど、単に荒れ地の土が細かくなっただけにしか見えない。
一応、内部から掘り返すようなイメージも付けたのだけれど、あまり効果はなかったのか、土は乾いた状態のままだ。
「こうなると、やっぱり魔道具に期待することになるのかな?」
辺境の町の屋敷にいた頃、屋敷に残されていた本で畑づくりに関して確認したことがある。
そのときに調べた情報だと、基本的に土づくりはすぐにできるものではなく、数週間はかけるのが普通だと書かれていた。
なので、この場所で真っ当に土づくりを行った場合、それと同等かそれ以上の時間がかかることになると思う。
とはいえ、それは魔法や魔道具を使わずに土づくりを行った場合の話だ。
幸い、私には便利な魔道具があるし、イメージ次第とはいえ一応は魔法も利用することができる。
なので、それらを利用するのであれば、そこまでの時間をかけずに土づくりを終えることができると思っている。
それに、魔道具は薬草の生育を助けてくれるはずだから、多少は土の質が悪くてもどうにかなるだろうしね。
その後、何度か魔法を試して最適な発動範囲を確認しつつ、薬草畑の予定地全体へと土地を耕す範囲を広げていった。
結果、どうにかお昼になる頃には予定地全体を魔法で耕すことができた。
「とりあえず、土づくりに関しては魔法でどうにかなりそうね。
無理そうならオニキスにも農耕器具で手伝ってもらうことを考えていたけれど、この分だと必要ないかな」
そうつぶやいて、敷地の外にいるオニキスへと目を向ける。
もしものときのために待機しておいてもらったけれど、無駄に待たせるだけになってしまった。
まだ、土づくりが完全に終わったわけではないけれど、この分だと残りの作業も魔法でどうにかできる気がするし、午後からの作業についてはどうしようか。
オニキスとスノウは、おとなしく作業を見ていてくれたけれど、アッシュとアクアについては、ただ見ているだけというのに飽きて、途中から敷地内の耕し終えた場所で遊んでいたし。
「まあ、そのあたりのことも昼食を食べながら考えましょうか」
そう口にして、昼食をとるために砦へと戻ることにした。
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