第14話 土づくり(1)

 翌朝、目覚めてすぐに目にした周囲の様子を見て戸惑いを覚える。

 けれど、それも一瞬だけで、すぐに昨日の改装で様変わりした自分の部屋だと気づいた。


 一応、昨日の夜にも見ているはずなのだけれど、思っていたより疲れていたのか、部屋のことについてはあまり頭に入っていなかったみたいだ。



「以前と比べて、随分と女の子らしい部屋になっているわね」


 改めて部屋の中を見回し、そんな感想を口にする。


 前回泊まったときは、前線にある砦の屋敷ということもあってか、実用的というか武骨というようなイメージの部屋だった。

 けれど、それが今では明るい雰囲気の女の子らしい部屋になっている。


「それにしても、時間も物も限られる中で、よくここまでちゃんとした部屋を作れたわね」


 一応、私も最終的な確認はしているけれど、基本的にこの部屋の内装についてはエリーが主導して決めている。

 なので、この部屋はエリーのセンスで作られたということになるのだけれど、派手過ぎず、かわい過ぎずという私の好みもおさえつつ、侯爵家の令嬢の部屋として最低限の質を確保するというなかなか難しいことを実現している。


 正直、復興途上の街で無理に物を集めても大した部屋にならないと思っていたけれど、これだけちゃんとした部屋が作れるのであれば、素直に改装して良かったと思ってしまう。

 やっぱり、武骨な暗い部屋よりも、女の子らしい明るい部屋の方が気分が良いしね。




「本日の予定についてですが、予定通り薬草畑の作業でよろしいですか?」


 朝食を終えた後、食後のお茶を用意してくれたエリーから尋ねられる。

 正直、このお茶の時間について、1人の場合は無駄なのではないかと思ったりもするけれど、エリー曰く、そういうものらしいので受け入れることにしている。

 まあ、ゆっくりできる時間自体は嫌いではないし。


「そうね、よく晴れているし、予定通り薬草畑の準備をするわ」


「かしこまりました。

 では、そのように準備を進めておきます」


 私の答えを聞いて、エリーが下がっていく。

 昨日の時点で予定は伝えていたから、既に準備は進めていたとは思うけれど、今の答えでいつでも出られるようにしてくれるのでしょう。


「それにしても、今日1日でどこまで進められるのかしら。

 夜には殿下から晩餐のお誘いを受けているし、何かしらの進捗を話すことができればいいのだけれど」


 前回は滞在期間が短いからと、到着したその日の夜に晩餐に招かれた。

 けれど、今回は長く滞在することになるので、移動日である昨日の夜に招かれるということはなかった。

 まあ、その結果として、今日の夜に招かれることになっているのだけれど。


「まあ、こればかりは実際にやってみないとわからないかな」


 そうつぶやき、手にしたカップへと口を付けた。






「さて、と。

 どこから手を付けようかな」


 薬草畑の予定地へとやってきたものの、改めて何もない土地を前にすると何から手を付けるべきかと迷ってしまう。

 辺境の町の屋敷の場合、薬草が異常成長していただけで薬草畑自体は既に用意されていたしね。


「まあ、まずは薬草畑にする場所の土をどうにかするところからよね。

 ……とはいえ、もう少し予定地の範囲をわかりやすくしておくべきだったかな?」


 目の前の予定地へと目を向けてそんなことをつぶやく。

 一応、目印として予定地の四隅と、それを結ぶ各辺に等間隔で杭が打たれているけれど、はっきりいってわかりにくい。

 まあ、単純に予定地に何もないせいで、薬草畑にしたときの完成形がイメージできないというだけなのだけれど。


「どうしようかな?

 先に区分けを考えてから土をどうにかするべきなのか、予定地全体の土をどうにかしてから区分けを考えるべきなのか……」


 先に区分けを考えておけば、薬草の種類ごとに明確に畑を分けることができると思う。

 とはいえ、今の広さで種類ごとに畑を別にする必要があるのかは微妙な気がするけれど。

 辺境の町の屋敷にいた頃は、同じくらいの広さの土地で特に畑を分けることなく薬草を育てていたのだから。


「というか、よく考えてみると私の中で育てる薬草の種類を決めているだけで、まだ向こうの要望をちゃんと聞いていない気がするね。

 そうなると、やっぱり全体を耕しておく方が無難なのかな?

 もしかしたら、向こうの要望で特定の種類の薬草だけ多く育てるというようなこともあるかもしれないのだし」


 畑を種類ごとに分けた後に、特定の種類の薬草の数を増やせと言われても対応が難しい気がする。

 持ってきている農業用魔道具の数に限りがある以上、同じ種類の薬草を複数の場所に分けて育てるというのは非効率な気がするし。

 まあ、複数の畑にまたがる形で魔道具の効果範囲を設定すればいいだけかもしれないけれど。


「まあ、辺境の町の屋敷でも特に畑を分けていなかったのだし、ひとまずは予定地全体を耕しちゃいましょうか。

 もし、別に畑を用意する必要が出たら、新しく空いた土地に畑を作ることにしましょう」


 少し悩んだものの、結局そんな結論を出し、行動に移すことにした。

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