第12話 候補地決定

「こちらが砦に滞在される際の住まいとなる屋敷になります」


 そんな言葉とともに、この砦内での住まいとなる屋敷をセリアさんから紹介される。

 砦内ということで、その敷地は広くないけれど、建物自体は私が滞在する場所としては十分以上のサイズがあると思う。

 いや、護衛のことも考えるとギリギリくらいなのかな?


 そんなことを考えつつ、先導するセリアさんに続いて屋敷の中へと入った。



 エリーがセリアさんに質問を繰り返しながら確認を進めるような形になったけれど、とりあえず住まいとしての評価は及第点に達していたらしい。

 色々と設備が古かったり、溢れの襲撃による影響で補修された箇所があったりと、エリー的に満点とはいかなかったみたいだけれど、かといって積極的に反対するほど致命的な何かもなかったみたいだし。


「問題があるとすれば、スノウたちの寝床が狭いというところだけど、あの子たち的には問題ないみたいなのよね」


 一応、貴族が砦に滞在するときのための屋敷ということで、厩舎なども用意されているのだけれど、さすがにスノウのような巨体を持つ従魔については考慮されていなかった。

 なので、特に窮屈な思いをさせることになるかもしれないスノウに大丈夫かと確認したのだけれど、別に問題ないと返されてしまったのよね。


 まあ、スノウとしては、そもそも数か月前まで魔の森で暮らしていたのだから、そこまで気にしないということみたいだけれど。




「とりあえず、候補地についてはこっちで決まりかな」


 今日の予定の最後だった屋敷の案内が終わったことで、砦近くの候補地に関する確認も終了となった。

 で、今は、案内された屋敷の中でエリーが用意してくれたお茶を飲みながらまったりしているところになる。


「よろしいのですか?

 安全性としては、山のふもとの候補地のほうが良いと思われますが」


 私のつぶやきを拾ってエリーがそんなことを聞いてくる。

 いや、貴女も昨日はあの候補地はダメダメだと言っていたじゃない。


「確かにそうかもしれないけれど、この砦が危険になるような襲撃はそうそうないと思うわ。

 それに、実際に砦の外周を一周して確認してみた限りでは、外壁もきちんと修復されていたみたいだったしね」


 まあ、魔物は大丈夫でも、人による危険があるかもしれないけれどね。

 とはいえ、これに関しては、山のふもとの候補地でも作業時や移動時に襲撃の可能性があるからどっちもどっちという気がするし。


 そうなると、素直に薬草栽培をやりやすい場所が良いということになって、この砦近くの候補地になるのよね。






 夜になり、砦へと帰還した第三王子から晩餐へと招かれることになった。

 まあ、事前に予定されていたものではあったのだけれど、予定に変更がなかった以上、魔の森でも特に問題は起きていないということでしょう。

 いやまあ、そう簡単に問題が起きてもらっても困るのだけれどね。


 晩餐の席へと到着し、待たせてしまった非礼を詫びて席に着く。

 その際、目の前に座る第三王子の様子を観察してみるけれど、相変わらずの貴公子然とした隙のない立ち振る舞いを見せていた。

 少なくとも、その様子からは少し前まで魔の森に入っていた疲れなどは微塵も感じられない。


 で、そんな隙のない彼に対して、薬草畑を砦近くの候補地に作ることを伝えたのだけれど、残念ながら、返ってきた反応も隙のないものだった。

 一応、表面上は歓迎するという態度ではあったのだけれど、それ以上のことは読み取ることができないという感じで。


 これについては、王族として心の内を読ませないことに長けているだけなのか、単に興味がないだけなのか。

 興味がないだけであればマシなのだけれど、裏で色々と画策されているといやだなぁというのが正直なところ。


 こちらとしても、近くでそれなりの期間を過ごすことになることが決まったので、もう少しあちらのスタンスを知りたいと思うのだけれど、残念ながら簡単にはそれを悟らせてはくれないらしい。






「結局のところ、やれることをやるだけというのは変わらないのよね」


 就寝前、ベッドの上で仰向けになってつぶやく。


 第三王子が何を考えているのかはわからないけれど、さすがに西部の復興に関しては本気で取り組むつもりでいるはずだ。

 であれば、その復興作業に協力している限りは、そうそう無下にされることはないと思う。

 まあ、頑張りすぎて変に目をつけられても困るから、ほどほどに頑張るのが理想なのだろうけれど。


「とはいえ、最悪の場合は年単位で一緒にいることになるかもしれないのよね。

 そう考えると、距離を取ってばかりじゃなくて、ある程度の歩み寄りも必要なのかな」


 というより、長い付き合いになるのであれば、もう少しお互いの思惑というものをすり合わせておきたい。


 私としては、復興協力を無難にこなし、余計なごたごたに巻き込まれずに無事に辺境の屋敷へと帰ることができればそれでいいと思っている。


 それに対し、第三王子が私に対してどう考えているのかがわからない。

 いやまあ、ここまでの態度から考えると邪魔者扱いされている気がしないでもないけれど。


 とはいえ、私としても父であるラビウス侯爵と取引した以上、何もせずに追い返されるわけにはいかない。

 一応、すでに辺境の屋敷については譲り受けてはいるものの、役目を果たせずに追い返されたときにどうなるかはわからないのだから。


「そう考えると、ストレートに私の思惑を王子様にぶつけるというのもありかもしれないけれど」


 問題はそれを伝えたところで信じてもらえるかわからないというところよね。

 というより、既に顔合わせの席でもそんな話はしているのだから、改めてそれを訴えたところで望み薄な気がする。


 そうなると、こちらの言葉を信じてもらえる程度の信頼関係を築く必要があるわけで。


「それを実現するためにやれることが、結局、復興協力を頑張るということになるのよね」


 最終的にここに帰ってきてしまう。



「まあ、やれることをやって、後はなるようになることを祈るしかないのかな」


 色々と考えてみたけれど、結局のところ、私がとれる選択肢は多くない。

 予定通り復興協力として薬草栽培を頑張ること。

 今できることはそれだけだと思う。


 ひとまず、明日は準備のために街に戻ることになっているし、今は砦での暮らしが少しでも快適になるように万全の準備を整えることを考えておきましょう。

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