第11話 砦近くの候補地

「こちらが薬草畑の候補地になります」


 昼食を終え、簡単に砦内を案内してもらってから、砦のすぐ外に用意された候補地へとやってきた。

 とはいえ、見た目的にはただの荒れ地でしかないのだけれど。


 そんなことを考えていると、エリーがセリアさんへと質問を投げかけた。


「特に範囲を示すものなどはないようですが、範囲に指定はありますか?」


「範囲に指定はありませんが、最低限の条件として、砦の外壁から一定以上離れていること、砦からの行軍の邪魔にならないこと、という2点を守ってもらう必要があります。

 ですが、その条件さえ守っていただけるのであれば、砦周辺の土地のどこを使っていただいても構いません。

 とはいえ、あまり砦から離れすぎると異変が起きても気づくことができませんので、皆さんで監視していただく必要があると思いますが」


「砦の周辺であればどこでも?」


「はい。

 この場所も一番使い勝手が良いだろうということで、最初にご案内しただけですから。

 ですので、希望されるのであれば、砦を挟んだ反対側の土地でも、ここよりさらに離れた土地でも自由に選んでいただいて構いません」


 なんとなしに2人の会話を聞きつつ、目の前の土地を眺める。

 正直、見た目だけであれば、山のふもとの候補地とほとんど差がないように見える。

 けれど、周囲の魔素濃度に関しては明らかな差が出ていた。


「山のふもとの候補地の3倍くらいかしら」


 手元の計測器を確認して小さくつぶやく。


 こちらの候補地についても、土地が荒れ地だったり、水源が砦内にしかなかったりと環境として恵まれていないところはある。

 けれど、周囲にこれだけの魔素があるのであれば、十分に魔道具の力で賄うことができると思う。

 何なら、魔石による魔素の追加供給なしでも薬草の生育速度を早めることができるかもしれない。



「フェリシア様、どうされますか?」


 周囲の魔素について考えていると、セリアさんと言葉を交わしていたエリーから話を振られる。

 正直、2人の会話は半分聞き流していたので、一瞬何を聞かれたのか分からなかったけれど、どうやら単にこれからの行動をどうするかと聞かれただけらしい。


「とりあえず、砦の周囲全体を見て回っておきたいわ。

 この場所の魔素濃度が申し分なかったから必要ないかもしれないけれど、念のためにね。

 もしかしたら、何か違いがある場所が見つかるかもしれないし」


 そんな風に答え、砦の周囲を確認するために移動しようと周囲に目を向ける。

 そこで、ふと気づいた。


「……さすがに、この数の護衛は不要なのではないかしら」


 いやまあ、砦まで移動するときの安全を考えると、護衛チーム2つで万全の体制を取りたかったというのは理解できるのだけれど、目と鼻の先に砦があるこの場所で2チームの護衛を連れ歩くのは明らかに過剰な気がする。


「セリアさん、魔の森で勝手に狩りをしたら怒られたりするのかしら?

 せっかくだから従魔たちを狩りに向かわせたいのだけれど」


「へっ!?

 あっ、いえ、魔の森の魔物を間引いてくださるのであれば、こちらとしても大歓迎なのですが、構わないのですか?」


「ええ、護衛の数も過剰な気がするし、何人かは従魔たちの付き添いとして一緒に行ってもらうわ。

 アドルフ、そういうことで構わないかしら?」


「……まあ、何人かを回す程度であれば問題ありませんが」


「であれば、何人かスノウに付き添ってくれる人を選んでくれないかしら」


 アドルフにそう告げて、隣を歩いていたスノウたちへと目を向ける。


 すると、私の言葉をしっかりと聞いていたのか、すでに期待に満ちた目をしていた。

 正直、昨日も軽く狩りに出てもらっていたから大丈夫かと思っていたけれど、やはりスノウたちには毎日でも狩りに出れるような環境が必要なのかもしれない。


 そんなことを考えている間に、アドルフとビルによって護衛メンバー数人が付き添いとして選ばれ、スノウたちとともに魔の森へと狩りに出発していく。

 それを見送り、私のほうも改めて砦周辺の確認へと向かうことにした。






 何事もなく砦周辺の確認を終え、タイミング良く帰ってきたスノウたちと合流して砦へと戻る。


 見回った結果として、特に新しい発見はなかったけれど、逆に新たに問題となるようなところも見つからなかった。

 なので、後は砦内に用意されるという住まいに問題がなければ、こちらの候補地に薬草畑を作ることになると思う。

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