第10話 前線拠点の砦へ
翌日、砦近くの候補地の視察に向かう了承を得られたので、朝のうちから復興の前線拠点となっている旧国境砦へと出発することになった。
ちなみに、今日は昨日のメンバーに加え、ビルの護衛チームも同行するという万全の警備体制となっている。
「空気が悪くなってきたわね」
街を出発してから数時間、次第に悪くなってきた周囲の空気に気づいてつぶやく。
街――旧領都よりも魔の森に近い場所は、広範囲にわたって汚染されたために、未だに浄化されていない場所が残っているとは聞いていた。
とはいえ、それは街道から遠く離れた場所のことだろうと思っていたのだけれど。
「砦との距離を考えると、この辺りが一番汚染が残っているのだと思います。
もう少し進めば、砦からの巡回頻度も多い場所になるでしょうから、徐々にマシになってくると思いますよ」
私のつぶやきを聞いたアドルフが律儀に返してくれる。
どうやら、砦と街の中間に近いこの辺りはあまり浄化が進んでいない場所になるらしい。
「でも、この街道は砦と街との連絡のために普段から使われているのでしょう?
それならもう少しこの空気の悪さもどうにかなっていそうなものなのだけれど」
「おそらく、これ以上の労力をかけての浄化は無駄だという判断なのでしょう。
溢れ直後の状態を知らないので確かなことは言えませんが、この周囲の瘴気は魔の森の浅瀬と同じ程度ですから、後は時間経過による浄化で問題ないという判断なのだと思います。
この程度の瘴気であれば魔物もそうそう生まれることはありませんから、外部からの魔物の侵入を防いでいれば自然と浄化が進むはずですので」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
まあ、この街道を使うのは基本的に砦に用がある人たちだけだろうからね。
それを考えると、魔の森の浅瀬程度まで浄化できていれば十分だという考えもアリなのかもしれない。
魔法による浄化作業も、人手が足りていないという話みたいだしね。
「とはいえ、周囲の瘴気が濃くなってきているのも事実です。
我々も周囲の警戒はしていますが、フェリシアお嬢様も念のためにあまり気を抜きすぎないようにしてください」
「わかったわ」
これだけの護衛に守られた状態で危険になる状況というのがイマイチ想像できないけれど、ここが魔の森の中だと考えれば気を抜くのが危険だというのは理解できる。
スノウたちも街を出た直後より周囲に気を配っているみたいだし、私も一度気を引き締めなおしておきましょう。
途中から感じられるようになった瘴気に警戒を強めたものの、無事に何事もなく砦へと到着することができた。
まあ、街道沿いを完全に浄化していないだけで、普段から巡回なり間引きなりは行っているだろうから当然ではあるのだろうけれど。
「前線拠点へようこそ、フェリシア嬢。
大したもてなしもできないのが心苦しいが、歓迎するよ」
で、砦へと到着した私たちは真っ先に第三王子のもとへと案内された。
どうやら、昼食を取り終えた直後だったようで、午後から予定していた魔の森の巡回に出発する前に挨拶を、ということらしい。
「お忙しいところ、お時間を取っていただきありがとうございます。
殿下に選定していただいた薬草畑の候補地の確認に来ただけですので、あまりお手を煩わせずに済むとは思うのですが」
「ああ、もちろんその話は聞いているよ。
私の予定が合うかどうかがわからなかったから、砦に詰めている兵の中から案内する者を選んでいる。
フェリシア嬢が到着した段階で連絡がいっているはずだから、すぐにやってくると思うよ」
第三王子がそう告げた直後、タイミングを計ったかのように背後の扉から入室を願い出る声が聞こえてきた。
「紹介するよ。
彼女が今回の案内役となるセリア君だ。
セリア君、フェリシア嬢のことをよろしく頼むよ」
「はっ、お任せください」
「では、申し訳ないが、予定があるのでね。
私は先に失礼させてもらうよ。
フェリシア嬢、また夜に会おう」
「はい、殿下もお気を付けください」
魔の森へと向かう第三王子にそう声をかけると、軽く微笑みを浮かべて部屋を退室していった。
てっきり、書類仕事にでも忙殺されているのかと思っていたけれど、意外なことに第三王子も魔の森へと頻繁に入っているらしい。
まあ、考えてみると、王族にふさわしい魔力量を持つ彼はこの地の最高戦力だろうしね。
普段の巡回程度であれば部下に任せることができるのだろうけれど、何か問題が起きたときには彼自身が対処に向かう必要があるのかもしれない。
「では、昼食をご用意していますので、まずはそちらへとご案内いたします。
その後は、この砦内を簡単に案内させてもらってから薬草畑の候補地へとご案内する予定です」
「わかりました。
その流れでお願いします」
第三王子を見送った後、セリアさんの先導で昼食をとるために食堂へと向かう。
一瞬、砦の兵たちが食事をとる場所なのかと思ったけれど、どうやら幹部や来客用に用意された食堂があるらしい。
そんな説明を聞きながら、通路を移動していく。
とりあえず、思ったよりも道中の移動に疲れたので少しゆっくりとしたい。
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