第9話 山のふもとの候補地

 早めの昼食を終えた後、早速、山のふもとの候補地へと視察に向かうことにする。

 せっかくの外出ということで、スノウたちも一緒だ。



「これはまた、何もないわね」


 資料を確認しつつ、候補地として指定された場所へとたどり着いての第一声がこれになる。

 目の前には、ものの見事にただの荒れ地という光景が広がっていた。


「もしかしたら、資料に書かれていない何かがあるかもしれないと思っていたけれど、普通に資料に書いてあった通りの場所みたいね」


「一応、広さとしては十分な土地が用意されているようですが」


 私のつぶやきに対し、エリーがフォローするようにそう口にするけれど、正直広さがあってもそこまでうれしくはない。

 持ってきた魔道具の効果範囲が決まっている以上、魔道具なしでの薬草栽培に手を出さない限りは一定の広さで十分なのだから。


 まあ、候補地とされていた土地はかなり広くとられているから、その範囲内でどこを選ぶかということくらいはできると思う。

 とはいえ、こうも何もない場所だと、どこを選んでも違いはなさそうな気がするけれど。


「ひとまず、指定された範囲全体を見て回ってみましょうか。

 あと、スノウたちには山のほうに狩りに向かってもらってもいいかしら?

 あちらに何がいるのかも簡単に確認しておきたいから」


 突っ立っているだけではどうにもならないので、とりあえずの行動方針を示す。

 ついでに、せっかくだからとスノウたちには山のほうへと狩りに出てもらうことにした。

 街を出るときには考えていなかったけれど、もしこの場所に薬草畑を作るのであれば山のほうからやってくるかもしれない害獣や魔物について確認しておく必要もあるだろうし。






「……やっぱり、この場所はないかな」


 一応、許す限りの時間で念入りに候補地全体を見て回ってみたけれど、出てきた結論は資料で確認したときと変わらないものだった。


「そうですね、さすがに色々と悪条件が重なりすぎています」


 どちらかというと第三王子のフォローに回る感じだったエリーですらこう言っているのだから、この場所のひどさがわかるというものだ。



 まず、やっぱり街からの距離が遠いというのがツライ。

 まあ、通勤時間が1時間だと考えるとそこまで珍しくもないのかもしれないけれど、それでもやはり薬草畑を作るのであれば住まいの近くに作りたい。


 それに、あの屋敷から通うとなると、なんだかんだで街中の移動も面倒だったりするし。

 スノウたちや護衛が目立ってしまったり、門での手続きなんてものもあったりするから。

 まあ、この辺りは慣れれば気にならないのかもしれないけれど。



 次の問題点は、この場所の環境が悪いというところ。

 一応、ある程度は覚悟していたから、用意された土地がただの荒れ地だというところはそこまで気にしていない。

 もともと魔道具を使うつもりだったし、究極的にはその動力源となる魔素さえあればどうにかなると思っていたから。


 ただ、問題はその動力源となる魔素が想定よりも少なかったということ。

 魔道具を使うことで薬草栽培に適した環境を作りだせるとはいえ、それを動かすための魔素がなければどうにもならない。

 一応、魔石を使って動かすこともできるけれど、用意した魔石も無限というわけではないので、それだけに頼るわけにもいかない。

 そもそも、持ってきた魔石に関しては生育速度を早めるために使うつもりだったからね。


 というわけで、薬草栽培に関しては魔石に頼らず、基本的に周囲の魔素だけで行いたいという思いがある。

 けれど、この場所だと魔石に頼らずに薬草栽培を行うことは難しい気がする。


 まず、土壌の荒れ地をどうにかするために魔素が必要になるし、その後は薬草栽培に適した魔素濃度になるまで魔素を満たす必要がある。

 さらに、周辺に水源となる場所がないので、一から水を作り出さないといけないので、それにも魔素が必要になってくる。

 で、そこからさらに生育速度を早めようとすると、もうどうしようもない。


 せめて、この場所の魔素濃度が魔の森と同等程度であればまだどうにかなったのだけれど。



 で、最後の理由が山にいた害獣について。

 比較的短時間の狩りだったので、山にいる害獣の類をすべて確認できたわけではないけれど、それでもこの短時間でイノシシやシカがスノウたちの手によって持ち帰られている。

 まあ、これらの動物が山から下りてくるかはわからないけれど、ザ・農家の敵というイメージのある動物たちがいる場所に、積極的に薬草畑を作りたいとは思えない。

 一応、魔道具のほうに簡易結界を張る機能がついているけれど、所詮は簡易結界なので、小型の害獣ならともかく、イノシシやシカサイズの害獣には無力だ。


 というわけで、周囲の外敵という理由からもこの場所は没ということになった。






「結局、砦近くの候補地に期待するしかないのね」


 候補地からの帰り道、オニキスの背に揺られながらつぶやく。

 事前に資料を読んでわかっていたとはいえ、本当に良いところのない候補地だったので疲労感というか徒労感がひどい。


 とりあえず、今は砦近くの候補地がまともであることを信じることにしましょう。

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