第8話 候補地の連絡
スノウたちとの狩りから一夜が明けた。
エリーの予想では、今日、明日あたりに第三王子から土地に関する連絡があるはずなので、今日は街の外に出かけることはしない。
なので、スノウたちも今日のところは滞在中の屋敷で過ごしてもらうことになる。
できれば、スノウたちには窮屈な思いをさせたくはないのだけれど、さすがに、あの子たちだけで狩りに行ってもらうというのは難しいからね。
まあ、この状況が長期化するようであれば、付き添いの冒険者を雇ったりというような対策を考えなければいけないと思うけれど。
「フェリシア様、第三王子殿下からの使者が訪ねてきています」
特に早くも遅くもない朝食を終え、食後のお茶を飲みながら今日の予定を考えていると、エリーからそんな報告を受けた。
おそらくは土地の話だろうとは思いつつ、一応、昨日の件があるので用件を確認しておく。
「使者?用件は聞いているの?」
「はい、薬草畑の候補地の選定が終わったので、その連絡だということです」
まあ、さすがに薬草畑の土地に関してだよね。
街のギルドに報告に行ってもらったアドルフの話でも、ゴブリンの件はギルドで調査をするという話だったのだから。
「わかったわ。
会いに行くから案内して」
なんにせよ、今日の予定を考えているところだったから、ちょうどいいタイミングだったね。
いや、タイミングが良かったのは、単に使者の人を待たせていただけだったりするのかな?
「一応、候補地は2ヶ所なのね。
資料を見る限りでは、ほぼ一択という気もするけれど」
使者との面会を終え、自室に戻ってから改めて受け取った資料を眺める。
もらった資料によると、街から西に向かった先にある山のふもとの土地と、前線拠点である旧国境砦周辺の土地の2ヶ所が候補地となるらしい。
ただ、山のふもとの候補地に関しては、この街から片道1時間近くかかると資料に書かれている。
基本的に魔道具任せになるとはいえ、薬草畑の様子に関しては毎日確認する必要があるのだから、さすがに片道1時間の場所というのは厳しい。
なので、実質選択できるのは砦周辺の候補地しかないような気がしている。
「とはいえ、一応確認くらいはするべきなのでしょうけれどね」
もしかしたら、資料に書かれていないだけで、山を管理するための管理小屋みたいなものがあるかもしれないし。
まあ、仮にそんな小屋があったとしても、そこで暮らしてまでこの場所を選びたいかというと微妙なのだけれど。
「では、候補地の確認に向かう手配を行いますか?」
隣で同じように資料を確認していたエリーが私のつぶやきを拾って確認してくる。
ただの独り言のつもりだったのだけれど、訂正する必要もない気がするし、任せてしまおう。
「そうね、お願いするわ。
山のふもとの候補地については特に必要ないでしょうけれど、砦周辺の候補地に関しては事前に連絡を入れておく必要があるでしょうしね」
山のふもとの候補地に関しては護衛チームに準備してもらうだけで済むだろうけれど、砦周辺の候補地に関しては移動に半日近くかかるので最悪あちらで一泊することになるかもしれない。
そもそも、砦周辺の土地だけ確認して砦に立ち寄らないというのも不自然だし、第三王子へも事前に話を通して調整しておく必要がある気がする。
「それにしても、フィリップ殿下はなぜこの2ヶ所を候補地として選んだのかしら?
砦周辺に関してはともかく、山のふもとに関してはあまり候補として適していないことはわかりそうなものだけれど」
移動に1時間近くかかると資料に書かれている以上、距離的な問題があることは事前にわかっていたはずなのだから。
それを考えると、街の中で復興が滞っている場所だったり、街の外壁の周辺だったりと他にも候補になりそうな場所はありそうなものなのに。
「おそらく、候補としてあまり適していなくとも、そこがまだマシだったのだと思いますよ」
「そうなの?
場所だけであれば、街の中だったり、街の周囲だったりに土地が余っているようにも思えるのだけれど」
「確かに、街中にも街の周囲にも利用できそうな場所があるようには見えますが、それらの場所を利用するわけにはいかなかったのでしょう。
街中の土地に関しては、おそらくすでに復興後の使い道が決められていると思いますし、街の周囲に関しても利用できる場所はすでに利用されているでしょうから」
まあ、復興が滞っているといっても、年単位で放置されるはずもないし、そちらは仕方がないか。
収穫1回分くらいなら利用できるかもしれないけれど、そこから改めて場所を移動するというのも手間だろうしね。
「でも、街の周囲の土地に関しては、すでに利用されている場所の外側を利用させてもらう形なら大丈夫ではないのかしら?
今利用している範囲のすぐ外側からいきなり利用できないような場所に変わるというわけでもないでしょうし、そちらのほうが山のふもとまで移動するよりもよほど近くて済むでしょう?」
「そちらに関しては、正確な理由はわかりませんが、もしかしたらこの街の住人とフェリシア様との間でのトラブルを警戒したのかもしれません」
「トラブル?」
エリーから返ってきた意外な言葉に思わず聞き返す。
もしかして、第三王子から見た私は問題児だとでも思われているの?
「そもそも、一般的に貴族と平民の相性はあまり良いとは思われていませんから。
それに、フェリシア様の場合は、例の事件のこともあって周囲に余計な人間を近づけたくないのではないでしょうか」
「あぁ、そういえばそういう事情もあったわね」
ついつい忘れていたけれど、そういえばそもそも大層な護衛が付けられている理由はあの誘拐騒動があったからだった。
そのことを考えると、確かに私のことは遠く離れた山のふもとにでも隔離しておきたいと考えても不思議ではないかもしれない。
「あれ?
でも、その場合でも山のふもとの土地まで移動する時間だったり、向こうで作業している間が無防備になって危険なのではないかしら?」
「そこに関しては、ラビウス侯爵家からつけられた護衛の力を信用しているということではないですか?」
そんな風にエリーが答えてくれるけれど、その口調はイマイチ自信がないように思える。
まあ、そのあたりのことは第三王子からすると勝手にやってくれということなのかな?
住民トラブルと襲撃に関してだと、住民トラブルに関しては紹介者である第三王子の責任が強そうな気がするけれど、襲撃に関しては守れなかったこちら側の責任ということになりそうだし。
そう考えると、第三王子からはイマイチ期待されていないのかな?
というか、晩餐のときの様子からは協調路線のような気がしていたのだけれど、イマイチ向こうのスタンスがわからないよ。
まあ、相手がどう思っていようと、私は私のやるべきことをやるだけではあるのだけれど。
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