第7話 魔の森での狩り

 門での手続きを終え、魔の森へと続く街道を進む。


 門を抜けるときに見た子供たちの姿に色々と思うところがあったけれど、魔の森に近づくにつれてテンションを上げるスノウたちにつられるように、私の意識も自然にそちらへと向けられることになった。



「思ったよりも普通なのね」


 魔の森へとたどり着き、その様子を見てつぶやく。

 溢れで壊滅するほどの被害が出たと聞いていたから相応に荒れていると思っていたけれど、その姿は思ったよりも普通だ。


「この辺りは街にも比較的近い場所ですから。

 溢れの後すぐに魔物の討伐を行っているでしょうし、それ以降も定期的に巡回が行われているはずです。

 であれば、一般的な魔の森と大きく変わるようなことはそうそうないと思われます」


「なるほどね」


 私のつぶやきに答えてくれたアドルフの言葉にうなずく。

 まあ、溢れが終結してから2ヶ月以上の期間を魔物の侵攻から守っているのだから、一般的な管理されている魔の森と同じような状態になっていても不思議ではないかもしれない。


 とはいえ、魔法で周囲の様子を探ってみると、屋敷の周囲の魔の森よりも魔物の気配というか、瘴気のような良くない空気が濃い気がするけれど。


「まあいいわ。

 スノウたちも待ちきれないみたいだし、すぐに狩りに移りましょうか」


 私の言葉に、スノウたちが嬉しそうにこちらへと顔を向ける。

 特にわかりやすいアッシュなどは、その表情から『早く、早く』という思いが従魔契約の繋がりを通さなくても読み取れるくらいだ。


「ふふっ、もう行っていいわよ」


 念のためにアドルフに視線で確認してから開始の合図を出し、その言葉とほぼ同時に駆け出して行ったスノウたちを見送る。


 狩りに付き合うとは言ったものの、私があの子たちと一緒に森の中で行動するということはしない。

 まあ、頑張れば一緒に行動することも出来なくはないけれど、それをすると護衛であるアドルフたちを困らせることになるからね。


 なので、スノウたちが狩りの成果を持ち帰ってくるのを待ちつつ、私は私で森の浅瀬での薬草採取に励むことにしましょう。






「さて、これをどうしようかしら……」


 積み上げられたゴブリンの死体を前にして、現実逃避気味につぶやく。

 いやまあ、普通に処理して帰るしかないのだけれど、予想していなかった事態ということもあって微妙に不安な気持ちになる。


 お昼を過ぎるくらいまでは、屋敷にいたころと同じようにスノウたちがお肉となる獲物を狩ってくるだけの平和な狩りだったはずのに……。



「確認したいのだけれど、この数は普通なのかしら?」


「……微妙なところです。

 一応、単に連続してゴブリンに遭遇したという可能性もありますが、それよりはこの森のどこかに、ある程度以上の規模の集落ができている可能性のほうが高い気がしますので」


「そう……。

 どうすればいいのかしら?」


 問題ないことを願って確認してみたものの、アドルフからは問題がありそうだという回答が返ってきた。

 まあ、1、2時間で10匹以上を狩ってきたわけだからね。

 この森のどこかに、ある程度以上の規模を持った集落ができていると考えるのも仕方ないと思う。


 ちなみに、狩りが終わった段階でスノウたちにも確認しているけれど、森の中に大きな集落ができているかどうかはわからないらしい。

 スノウたちとしても、とにかくゴブリンは見かけたら狩るという意識のもと、遭遇したゴブリンを狩っていただけみたいなので。


「ひとまずはこの死体を処理して、街に戻るしかないでしょう。

 とはいえ、短時間でこれだけの数が狩れている以上、街に戻ったらすぐに報告して確認をしてもらう必要はあると思いますが。

 最悪、こちらにその対応を投げられるかもしれません」


「その対応は貴方たちだけで可能なのですか?」


「集落の確認だけであれば可能だと思います。

 ですが、その集落のせん滅となると、仮にフェリシアお嬢様の護衛役を免除してもらって2チーム合同で対応に当たっても難しいと思います。

 もちろん、集落に存在するゴブリンの数次第ではありますが」


「そうですか。

 フェリシア様、どうされますか?」


「……ひとまず、街に戻ってから考えましょう。

 ゴブリンたちの対処をこちらに求められるかどうかもまだ分からないのですから」


 結局、その場では結論を出すことができず、スノウたちが狩ってきたゴブリンの死体を処理して街に帰ることになった。


 正直、微妙に問題が増えてしまったことに思うところがないわけではないけれど、狩りを終えたスノウたちが満足そうにしているから良しとしましょう。

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