第6話 街の様子

 翌日、ゆっくりとお昼まで寝ていた前日とは異なり、比較的早い時間に起きて出かける準備を進める。

 窓から見える空も晴れ渡っているし、今日は絶好の狩り日和になりそうだ。



「結局、ゆっくり休むことにはなりませんでしたね」


 改めて装備を確認していると、荷物を持って控えているエリーからそんなことを言われてしまう。


「まあ、今日はスノウたちに付き合うだけだから、お休みみたいなものよ」


「普通、貴族のご令嬢はお休みの日に狩りに付き合ったりはしないものですけどね。

 そういうのはご令息方がたしなむものだと思います」


「あはは……」


 エリーの言葉に反論することができない。

 とはいえ、スノウたちを従魔とする以上、主人としてできる限りのことをすると決めたのだから、狩りに付き合うくらいのことは普通だと思う。

 まあ、確かに貴族のご令嬢がすることではないのかもしれないけれど。


「でも、本当にエリーも付いてくるの?」


「はい。

 といっても、本当に付いていくだけになると思いますが」


 ちなみに、そう答えるエリーの服装はいつものメイド服のままだ。

 そんな装備で大丈夫なのかと不安になるけれど、エリー曰く、戦闘にも耐えうる素材で作られたメイド服なので問題ないとのことだ。


 メイド服に戦闘要素が必要なのかは疑問だけれど、貴族としての見栄なのか備えなのか、貴族に仕える人たちのメイド服はそういうものなのだとか。

 もっとも、肝心のエリーの戦闘能力に関しては、学園で基礎訓練を受けた程度でしかないらしいけれど。




「もしかして、待たせてしまったかしら?」


 自身の準備を終えて屋敷の裏庭へと向かうと、スノウたちが既に準備万端という雰囲気で待ち構えていた。

 私に対して要望を出すというだけあって、どうやら本当に狩りに飢えていたらしい。


 まあ、西部への道中だとスノウたちに狩りをさせてあげられなかったし、魔物が出ても護衛たちがあっさりと討伐していたからね。

 そもそも遭遇する魔物自体がほぼいなかったというのもあるのだけれど。



「じゃあ、待ちきれないみたいだし、出発しましょうか」


 スノウたちと軽く触れあったところで、皆に向かって出発を告げる。

 いつもなら甘えてくるアッシュですら待ちきれないという感じなのだから、無理に遅らせる必要もないでしょう。

 こちらとしても既に準備は終えているのだし。


 護衛チームのリーダーであるアドルフにも視線を向けて確認するけれど、どうやら問題なさそうだ。

 なので、そのままオニキスへと近寄り、その背中に乗せてもらう。


 今日は魔の森での狩りということで、普段は馬車での移動を推すエリーも私がオニキスに乗って移動することを許してくれている。

 まあ、別に馬車で移動することも出来なくはないのだけれど、スノウたちの狩りに付き合うための移動に私だけ馬車に乗るというのも違うと思うしね。




「思ったよりも復興が進んでいるのね」


 前後を護衛に囲まれた状態で街の中を進み、左右に並ぶ真新しい建物を眺めてつぶやく。

 先日の晩餐での話し合いから復興の進捗が思わしくないのでは?と思っていたけれど、この景色を見る限りでは、あまり復興に手間取っているようには見えない。


「残念ながら、復興が進んでいるのは中心を走る大通りだけです。

 1本奥の通りに入ってしまうと、未だに再建がままならない場所がいくらでも残っています」


「そうなのね」


 エリーからの訂正の言葉に頷き、時折見える横道の先を見つめてみる。

 けれど、さすがにこの位置からでは1本奥の通りの様子まで見通すことはできない。


 とはいえ、エリーが言っているのだから、本当に表通り以外は未だに復興途上ということなのだろう。

 まあ、街が破壊されたことである意味一等地に空きが出来たわけなのだから、そこから埋まっていくのも仕方ないとは思うのだけれど。


「それにしても、目立っているわね」


 復興状況を確認するために左右に視線を向けていると、こちらへと注目が集まっていることに気付く。

 西部に来るまでの道中は馬車の中だったから自分の目で確認することはできなかったけれど、スノウの存在が注目の的になるというのは事実だったらしい。

 一応、ついでという感じで後ろに続く私たちにも視線が向けられるけれど、ほとんどはスノウとアッシュ、アクアに対する注目だ。


「さすがにあのサイズの従魔は珍しいですからね。

 あそこまでの巨体になると、食費はもちろん、住むための場所にも困ることになりますし」


「冒険者が集まっていると聞いていたから、従魔もそれなりの数がいるのかと思っていたけれど、そういうわけでもないのね」


「戦闘用の従魔を連れている冒険者は稀という話ですから。

 基本的に、従魔として使役するのは伝令用だったり偵察用だったりというのが多いと聞いています。

 後は、魔法で支援するタイプの従魔も人気があったりするようですが、こちらはそもそもの数が少ないみたいですね」


 一応、魔法で支援する従魔というのもいたりするのか。

 イメージ的には妖精とかそういう感じの魔物だと思うのだけれど、やはりそういうタイプは数が少ないらしい。

 まあ、なんとなく簡単には出会えないイメージがあるし、従魔契約を結ぶのも難しそうだしね。



 エリーを相手にそんなことを話していると、街の外へとつながる門へとたどり着く。

 事前に話を通していたとはいえ、さすがに素通りというわけにはいかないらしく、アドルフたちによる手続きが終わるのをしばらく待つことになった。


「うん?

 ずいぶんと小さな子まで外に出るのね」


 門の前で待ちながら周囲を見回していると、子供の集団が街の外へと出ていくのが見えた。

 私が待っている馬車などのための門とは違い、住民向けの小さな門なので簡単な確認でサクサクと進んでいるけれど、半分近くが子供に見える。

 自分のことを棚に上げてアレだけれど、私と同じくらいの年齢の子供が街の外に出るのはどうなのだろう?


「溢れで親を亡くした子供や、難民としてやってきた者たちのようですね。

 第三王子殿下も出来る限りのことはされていると思いますが、復興作業で回せる仕事はほとんどが大人向けになりますから。

 なので、それらの仕事からあぶれた子供たちが街の外で薬草採取などをして生計を立てているそうです」


 私の疑問に対し、隣からエリーの答えが返ってくる。


「子供だけで街の外に出て大丈夫なの?」


「まあ、街の外といっても、魔の森まで遠出しているわけではないそうですから。

 今日の狩りについても、彼らの存在があるので魔の森まで足を延ばすように要請されていますし」


「あら、そうだったのね。

 てっきり、街の近くだと獲物がいないからだと思っていたわ」


「もちろん、そういう理由もあります。

 ですが、そちらよりも彼らへの配慮という理由の方が大きいですね」


 そういう配慮がされるくらいには街からも意識されているのかな?

 とはいえ、配慮するくらいで、積極的な支援にまでは手が回っていないみたいだけれど。


 ……まあ、そのあたりのことは第三王子の手腕に期待しましょうか。

 私自身、この西部での立場が確立できているわけではないのだし、まずは自分のことを考えないといけないしね。

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