第5話 休日

「えっ、フィリップ殿下はもう前線へと戻られたの!?」


 一夜明けた翌日、のんびりと朝食をとっていると、エリーから意外な話を聞かされる。


「ええ、フェリシア様が西部に到着する前からこの街に滞在されていたようですし、この街でやることが全て片付いたので前線へと戻られたようです」


「……もしかして、見送りとかが必要だった?」


「いえ、殿下もフェリシア様がお疲れであることは理解されているでしょうし、そこまでは望んでいなかったと思います。

 そもそも、その必要があるのであれば、昨夜のうちに連絡があったと思いますし」


 まあ、それもそうか。

 もしも婚約者アピールをする機会として考えていたのであれば、エリーの言うように事前に連絡の1つもあっただろうしね。


「それにしても、ずいぶんと早くに出発されたのね」


「いえ、確かに朝のうちに出発されていますが、そこまで早い時間ではないですよ。

 フェリシア様は実感されていないようですが、もうすぐお昼になる時間ですから」


「えっ、もうそんな時間なの!?」


 エリーの言葉に驚いて窓の外を見るものの、よく晴れた青い空が見えるだけで時間についてはハッキリわからない。

 なので、室内に置かれた質素な置時計を確認してみると、確かにお昼に近い時間を示していた。


 ……まあ、今日はゆっくりする予定だったから構わないか。

 さすがにこんな時間まで寝過ごすつもりはなかったけれど、疲れもとれているみたいだから結果オーライということにしましょう。



「本日の予定はどうされますか?」


 結局、昼食代わりとなった朝食を終えると、食後のお茶を用意してくれたエリーから確認される。


「とりあえず、オニキスたちに会いに行くわ。

 みんなこの屋敷でお世話になっているのよね?」


「はい、フェリシア様の従魔はこの屋敷で預かってもらっています。

 この後すぐに向かわれますか?」


「そうね。

 他にやることもないし、お茶を飲んだら向かうことにするわ」


「かしこまりました。

 では、先に連絡を入れておきます」


 そう言って部屋の外で待機する護衛たちのもとへと向かうエリーを見送る。

 まだ一晩とはいえ、あの子たちが不自由していないといいのだけれど。






「キャッ」


 オニキスたちが滞在する場所へと向かうと、私を見つけたアッシュが飛び掛ってきた。

 一応、常に身に纏っている身体強化魔法のおかげでまだ受け止めることが出来ているけれど、これ以上成長されると厳しいかもしれない。

 なにしろ、出会った頃とは違って既に大型犬サイズを超えているのだから。


「スノウもアクアも元気そうね」


 受け止めたアッシュを地面へとおろし、遅れてやってきたスノウとアクアにも声をかける。

 アクアはアッシュと同じ年だけれど、いきなり飛び掛ってくるようなことはしない。

 尻尾が振られているので、うれしがってくれているとは思うのだけれど、女の子だからか、おしとやかな性格なのかもしれない。



「それで、何か困っていることはない?」


 ひとしきりアッシュとアクアを構い倒した後、スノウとオニキスに向かって問い掛ける。

 オニキスについては離れたところにいたみたいだけれど、気付いたらこちらまでやってきてくれていた。



「……狩りがしたいの?」


 正直、一晩程度では特に困ったこともないだろうと思っていたけれど、意外なことにスノウからそんな要望が伝えられてきた。

 従魔契約によるつながりを通したイメージで伝えられただけなので、念のために言葉でも確認してみるけれど、こちらを見てハッキリと頷かれる。


「どこか、狩りが出来るような場所ってあるかしら?」


「申し訳ありませんが、さすがに周辺の狩場までは調べられていません。

 一応、魔の森まで移動すれば狩りは出来るとは思いますが」


「ですが、この後すぐに魔の森に向かうというのは護衛の立場としては賛成できかねます。

 今から移動した場合、往復の時間を考えると森で狩りをする時間を満足に取れないでしょうし、我々も森での護衛の準備が出来ているわけではありませんので」


 とりあえず、スノウが狩りをしたいということは間違いないみたいなので、後ろに控えてくれているエリーたちに確認してみると、そんな答えが返ってきた。

 ちなみに、エリーの後の言葉は護衛チームのリーダーであるアドルフのものだ。


「スノウ、今日すぐに狩りに向かうのは難しそうなのだけれど、明日になってからじゃダメかしら?」


「フェリシアお嬢様が同行されないというのであれば、ビルたちのチームか同行する冒険者を雇って従魔たちだけで狩りに向かうということは可能です」


 ああ、なるほど。

 護衛的に問題になるのは私の存在なのか。


「ちなみに、そういうことみたいだけれど、どうする?」


 改めて問い掛けてみると、明日で構わないというイメージが伝わってくる。


「そう。

 じゃあ、明日になってから狩りに向かうことにしましょうか」


 スノウにそう伝え、後ろに控えるエリーたちへと振り返る。


「そういうことなので、明日はスノウたちの狩りに付き合うことにするわ。

 スノウたちが狩りをしても問題ない場所を調べておいてもらえるかしら?」


「かしこまりました。

 こちらで調べて、手配しておきます」


「よろしくね」



 結局、その後は特に予定がなかったこともあり、そのまま夕食の時間までオニキスやスノウたちと戯れて過ごすことになった。


 ちなみに、オニキスからは、もっと走りたいけれどしばらくはこの屋敷内で我慢するという大人な意見が返ってきていた。

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