第4話 顔合わせを終えて

「フィリップ殿下の話についてどう思う?

 私としては、もう少し拒否感があるというか、厄介者扱いされるかと思っていたのだけれど」


 第三王子との晩餐を終え、割り当てられた部屋へと帰ったところでエリーに問い掛ける。


「そうですね、思ったよりもこちらの状況は良くないのかもしれませんね」


「そうなの?」


「はい、事前の協議では第三王子殿下はフェリシア様の西部入りに反対されていたそうですから。

 婚約者という立場に加え、年齢的なことからも好意的な反応ではなかったと聞いています。

 それが、先ほどの話し合いでは積極的とまでは言えないまでも、フェリシア様が復興作業に協力することに肯定的でした。

 辺境の町でフェリシア様が大量の薬草を卸していた情報は伝わっているはずですし、以前の反対意見を翻すくらい余裕がないのではないでしょうか」


「薬草が足りていないということ?

 それとも魔物の討伐が芳しくないのかしら」


「おそらくその両方ではないかと。

 薬草が不足しているから魔物討伐が滞っている、あるいは魔物の討伐が難航しているからこそ薬草が不足しているという状況なのだと思われます」


「なるほどね。

 だったら、すぐにでも薬草の栽培の準備に取り掛かったほうがいいのかしら?」


「いえ、さすがに無理に急ぐ必要はないでしょう。

 第三王子殿下の方から薬草栽培の土地についての連絡があるまでは出来る準備もあまりないでしょうし、その連絡を待ってからで十分かと。

 なにより、今日到着したばかりなのですから、数日くらいはゆっくりと身体を休めても責められることはないと思いますよ」


 まあ、それもそうか。

 西部に来るまでの道中について、夜は街の宿に泊まっていたとはいえ、王都で一日滞在した以降はずっと移動が続いていたのだから。

 その王都での滞在についても、兄や姉とのお茶会があったりで完全な休日というわけでもなかったし。


「土地についての連絡はいつごろ来ると思う?」


「そうですね、2、3日といったところではないですか?

 この街や前線基地周辺の土地に関しては、殿下の方で管理されているでしょうし、よほど忙しい状況になっていなければその程度で回答が来ると思います」


「そう。

 じゃあ、とりあえずはその連絡が届くまではゆっくりする感じかな?」


「それがよろしいかと」


 2、3日の休日か。

 とりあえず、明日はゆっくり過ごすことにして、その後はこの街の復興具合でも確認に行こうかな。




「それで、フェリシア様から見て第三王子殿下の印象はどうだったのですか?」


「へ?」


 晩餐のために着飾られた衣装の着替えを手伝ってもらっていると、エリーからそんな質問をされる。


「仮初めの相手とはいえ、婚約者という立場でそれなりの期間を付き合うことになるのですから、フェリシア様からの印象も大事だと思いますよ。

 先ほどの様子からは、そこまで悪い印象ではないように感じましたが」


「あー、そうね。

 正直、こちらが値踏みされる立場だと考えていたから、そこまで気にしていなかったわ。

 ……とりあえず、印象としては普通かしら」


 王子様相手に普通と評するのもどうかと思うけれど、現状、さっきの晩餐のイメージで判断するしかないからね。

 そうなると、良くも悪くもないということで普通という評価になってしまう。


「普通、ですか」


「正確には、良くも悪くもないというか、まだよくわからないという感じだけれどね」


 どう考えてもお子様でしかない私を相手に、きちんと対応してくれていたから悪い印象はない。

 とはいえ、あの対応も単に王族として染み付いた習慣でしかないような気もするから、イマイチ判断が難しいのよね。


「まあ、まだ一度顔を合わせただけですからね……。

 そういう意味では、殿下の外見はどうだったのですか?

 学園にいた頃はかなりの人気だったのですが」


「外見ねぇ。

 確かにカッコよかったとは思うけれど……」


「?

 カッコよかったと言う割には、微妙な口ぶりですね」


「だって、カッコよかったからといってどうこうというわけではないから。

 さすがに生理的に受け付けないような外見であれば別だけれど、そうでないならそこまで外見にこだわりはないわ。

 仮の婚約者という立場なのだから、無難に付き合うことができればそれで構わないのよ」


「……さすがに、そこまで割り切って考えるのもどうかと思うのですが」


 真面目に答えたというのに、エリーに呆れられてしまう。

 いやまあ、可愛げのない考え方だというのは否定できないのだけれど。


「まあ、私の考えはいいじゃない。

 それより、お風呂の準備は出来ているのかしら?

 思ったよりも疲れているみたいだから、お風呂に入ったら今日はそのまま休むことにするわ」


「……湯浴みの準備は出来ています」


「そう、じゃあこのまま向かうわ」


 ドレスを脱いだ格好のまま浴室へと向かう私に対し、エリーはまだ何か言いたげな雰囲気だったけれど、特に口に出すことなく付いてきてくれる。


 少し強引に話を終わらせてしまったような気もするけれど、第三王子のことを今の段階でアレコレ言われてもね。

 エリーも貴族の出だから色々と思うところもあるのだろうし、私のことを思って言ってくれているのかもしれないけれど。



 とりあえず、第三王子に関してはこちらに来る前から考えていた通りの対応でいいかな。

 興味を持たれないよう、付かず離れずの良い感じの距離感を保ちながら無難に接していく感じで。

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