第2話 待ち時間

 事前にしっかりと連絡がされていたのか、特に手間取ることなく屋敷の中へと入ることが出来た。

 出迎えてくれた侍女によると、まずは私の滞在場所として用意された部屋へと通されることになるらしい。



「……ずいぶんとシンプルな部屋ね」


 案内してくれた侍女が退室した後、部屋の中を見回してつぶやく。

 別に豪華に飾り付けられた部屋を希望しているわけではないけれど、ここまでの道中で泊まっていた宿と同じかそれ以下というのは意外だった。

 何となく、貴族という生き物は屋敷の調度品にはお金をかけるものだと思っていたから。


「旧辺境伯の資産については、かなりの部分が復興のために売り払われたと聞いています。

 もちろん、最低限必要なものについては手放すことなく残しているとは思いますが」


「ああ、旧辺境伯領自体が王家に接収されたんだっけ」


 私のつぶやきに反応して、エリーが事情を説明してくれる。

 それを聞いて、私も旧辺境伯領に関する話を思い出した。


 魔物の溢れによって旧辺境伯の主だった血縁者が軒並み亡くなってしまったこと、そして、統治できる人間がいなくなった旧辺境伯領が一時的に王家の直轄領に組み込まれることになったということを。

 で、その結果として、復興作業を王家が主導することになったから、その財源を旧辺境伯の資産からまかなおうという意図なのだろう。


 まあ、王国としても、魔物の溢れで被害を受けた場所は西部だけではないのだから、ここにだけお金をかけるわけにはいかないだろうしね。



「……でも、さすがにやり過ぎじゃない?

 もしかして、私に対する当て付けだったりするのかしら?」


 理由についてはわかったけれど、改めて確認しても、この部屋のシンプルさというか殺風景さは酷い気がする。

 少なくとも、一応は婚約者であるはずの侯爵家令嬢に対して用意するような部屋ではないと思う。


「いえ、さすがにそういう意図はないと思いますが……」


 エリーも否定しようとしてくれるけれど、口にするその言葉には力がない。

 というか、仮に当て付けではないとするのであれば、もしかして、復興のための財源がかなり厳しかったりするのかしら。




 西部での先行きに不安を覚えつつ部屋で待っていると、屋敷の侍女が第三王子からの伝言を伝えにやって来た。


「顔合わせは晩餐で、か」


 侍女が届けてくれた伝言は、第三王子からの晩餐のお誘いだった。

 つまりは、そこで顔合わせと今後の予定に関する話し合いをしようということなのだと思う。


「晩餐を共にするとなると、気合を入れなくてはいけませんね。

 初めて顔を合わせることになるのですから、フェリシア様の可愛さを前面に押し出さないといけません」


「えっ!?

 い、いや、ほどほどでいいわよ、ほどほどで。

 第三王子様に失礼にならない程度でいいから」


 晩餐の席での話し合いがどうなるのかと考えていると、何故かエリーが無駄にやる気になっていた。

 そのことに驚いて、どうにか穏便に済ませてもらおうとしてみるけれど、これは無理かもしれない。

 エリーの目がいつになく真剣だ。


 その後、どうにかほどほどの装いを選択してもらおうと抵抗してみたけれど、残念ながら私の訴えが聞き入れられることはなかった。

 結果、私はエリーが満足するような気合の入った装いで晩餐に臨むことになってしまった。

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