第2部

プロローグ

「フェリシアさん!?戻られたんですか?」


 辺境の町の冒険者ギルドに顔を出すと、私に気付いたティナさんが駆け寄ってきた。


「あはは、残念ながら一時的に戻れただけです」


 ティナさんの勢いに驚きつつ、そんな風に返す。

 できれば、一時的になどという言葉をつけずに戻ってきたと言いたかった。

 けれど、残念ながらその願いは叶わなかったので、今は将来的にそう言えるようになるための準備を進めるしかない。




「そうですか。

 第三王子の婚約者として西部の復興協力に……」


 個室に移動し、ティナさんに領都で決まったことを説明する。

 ただ、ティナさんであっても仮の婚約者だということは伏せたままだけれど。


「そういう事情でして、何か西部の復興協力として私に出来そうなことの案はありませんか?」


 今日、ギルドにやって来た目的の1つがこれになる。

 領都からの移動中にもケルヴィンさんたちやエリーに相談しているけれど、こういったものは色々な人から意見を聞いたほうがいいだろうし。

 ちなみに、今のところの案は向こうで薬草栽培を始めるか、スノウたちと一緒に魔物の討伐に協力するかというものになる。


「……そうですね、私のイメージだとフェリシアさんといえば薬草なので、西部でも同じように薬草を栽培したり、採取したりするのがいいのではないですか?」


「やっぱり、そういう方向になるのですね……」


「今の提案ではいけませんでしたか?」


「あっ、いえ、いけないというわけではないのですが、ケルヴィンさんたちから出た案も同じようなものだったので」


 そう言うと、同席していたケルヴィンさんが肩をすくめる。


「仕方ないじゃない。

 貴女がどういうことが出来るかわからないのだから、できるとわかっていることから案を出すとそうなるわよ」


「まあ、そうなりますよね。

 ああ、でもそういえば、従魔の傷を癒すために治癒魔法も使われていませんでしたか?

 であれば、西部で負傷した兵たちを癒すことで協力するということも出来るかもしれませんね」


 リリーさんの言葉に苦笑をこぼし、思い出したようにティナさんが新しい提案をしてくれる。

 でも、残念ながらその案も検討済みなのよね。


「あいにくと、嬢ちゃんを治癒士として協力させるのは護衛の立場からすると却下だな。

 あの事件があった以上、不特定多数の人間が嬢ちゃんに簡単に近づける状況というのは問題がある」


「ああ、言われてみれば確かにそうですね」


「それに、この子は本職の治癒士というわけでもないから。

 魔力量は多いから、多くの負傷者を癒すことは出来るでしょうけど、おそらく重傷者の治療は出来ないわ。

 まあ、軽症を治療できるだけでもあちらでは需要はあるでしょうけど、それだとケルヴィンが言ったような問題が出るのよ」


 まあ、こういう理由で却下されていたりする。

 たぶん、治癒魔法に関する資料を脇においておけば、重傷者相手でも魔力のごり押しで治療できるとは思うけれど、私だったらそんな相手に治療を頼みたくはない。

 それに、資料に載っていない治療になると手が出せなくなるし、やっぱり治癒士として協力するのは難しい気がする。

 いきなり腕が切り落とされたとか言って持ってこられても、それをつなぐ自信はないしね。


「そうなると、残念ながら他に思いつくような案はないですね」


 その後は特に有用な案が出ることもなく、結局、お互いの近況を報告するだけで終わることになった。




「結局、西部で何をするかは決めたの?」


 屋敷への帰り道、馬車の中でリリーさんから問い掛けられる。

 私としては今までどおりオニキスに乗って移動するつもりだったのだけれど、エリーに却下されたのでこのような形になっている。

 ちなみに、御者はケルヴィンさんだ。


「そうですね、色々な人から意見をもらいましたけれど、素直に薬草を栽培したり採取したりするのが良さそうな気がします。

 魔物の討伐に関しては、自分から進んでやりたいとは思わないですし」


「まあ、結局それが無難そうよね」


 リリーさんも私の意見に反対するつもりはなさそうだ。

 まあ、これまでの話し合いでも薬草関連のことで協力するのが良さそうだと話していたから当然かもしれないけれど。



 とりあえず、西部の復興協力でやることも決めたし、屋敷に戻ったら西部で必要になりそうなものの準備を始めることにしましょう。

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