エピローグ
「そう、それで第三王子の婚約者という立場を引き受けたのね……」
「えっ、何か問題がありましたか?」
「いえ、問題はないわ。
侯爵が語った内容が全て実現されるのであれば」
「……もしかして口約束に騙された感じですか?」
父であるラビウス侯爵との話し合いを終え、別室で待機していたケルヴィンさん、リリーさんと再び合流することになった。
ケルヴィンさんたちであれば事情を説明しても構わないと言われたので、先ほどの話し合いについて相談してみたのだけれど、なにやら雲行きが怪しい。
「口約束かどうかはわからんがな。
ただ、侯爵が本気でそれを実現しようと動くかは微妙な気はするぞ。
そもそも、第三王子の婚約者として嬢ちゃんが最適だと判断したからこそ婚約者候補に選ばれたんだろう?」
「そうね、侯爵としても新しく婚約者候補を探すより、貴女にそのまま婚約者になってもらった方が楽でしょうしね。
積極的に西部の復興に協力する女性というのは、第三王子の出した婚約者の条件にも合致しているのでしょう?」
「……」
もしかして、考えが甘かったのだろうか?
辺境の町の屋敷に加え、できる限りの社交の免除という言葉に、つなぎの婚約者役を引き受けると言ってしまったのだけれど。
思わず、侯爵との話し合いにも同席していたエリーを振り返る。
「確かに、旦那様はフェリシア様に第三王子殿下の婚約者になってもらいたいと考えているとは思います。
ですが、さすがにフェリシア様を騙してまでそれを実現しようとは思っていないでしょう。
リリー様がおっしゃったように、西部での復興協力を通して第三王子殿下に見初められればと考えている程度だと思いますよ」
「……万が一、見初められたとしてこちらから断ることは出来るの?」
「第三王子殿下の噂を信じるのであれば、無理強いされることはないと思いますが……。
ですが、その場合は旦那様がフェリシア様の説得に本気になるでしょうね」
うわぁ、めんどくさい。
万が一にも見初められることがないように、復興協力の手を抜いたほうがいいのかな?
でも、その場合は第三王子によって西部から追放されそうな気がする。
そうなったらなったで構わない気もするけれど、報酬となる屋敷がもらえなくなるのはイヤなのよね。
「では、ケルヴィン殿、リリー殿、引き続き、フェリシアの護衛をよろしく頼む」
「ええ、お任せください。
西部に向かうのはやや遅くなりそうですが、準備が出来次第、無事に送り届けますよ」
結局、侯爵への回答を翻すことはしなかった。
結果、一夜明けた今日の時点で既に色々な手配が進められているらしい。
私への報酬とされたあの屋敷についてもそうで、書類の上では、あの屋敷は既に私のものになっているとのことだ。
……なんというか、侯爵からの逃げ出すことを許さないという圧を感じてしまうよね。
実際には、単に誠意を見せるために報酬を先払いにしただけかもしれないのに。
「フェリシア。
昨日も言ったが、お前を無理やり殿下の婚約者にするというようなことは考えていない。
結果的にそうなって欲しいと思っていないわけではないが、お前は余計なことを考えずにただ西部の復興に協力してくれればいいだけだ」
不安が顔に出ていたのか、そんな風に声をかけられる。
でも、愚直に西部の復興に協力して成果を出すと、第三王子に気に入られかねないのでしょう?
そんなことを内心で考えつつ、余計なことを言わずにうなずいておく。
仕方ない、覚悟を決めよう。
報酬に釣られてうなずいてしまったのは私なのだ。
だったら、その決断に責任を持とう。
何より、前世の日本人的思考が既に動き出した流れを止めることを恐れているし……。
そんなことを考え、侯爵に背を向けて歩き出す。
ひとまず、馬車の隣で私を待つオニキスやスノウたちと引き離されるという最悪の事態は避けることが出来た。
それに、彼らと過ごすための屋敷も報酬の先払いとして既に手に入れている。
であれば、西部の復興協力をしっかりとこなして、大手を振ってあの屋敷での気ままな生活を手に入れることにしましょう。
―――
ひとまず、本編についてはここで終了となります。
後日談として西部の話を書くつもりですので、良ければお付き合いください。
2023/7/18追記
「忘れられ令嬢の気ままな日常」というタイトル的に、ここまでがタイトルに沿った本編で以降は後日談という形になるのかなと思って本編が終了と書きました。
ですが、本編終了という書き方は思っていたよりも重い表現だったみたいです。
後日談と言いつつ、西部の話もそれなりの長さになる予定ですので、素直に第1部、第2部という形にしたいと思います。
ですので、この話で第1部が終了、次の話から第2部が開始ということになります。
まぎらわしくて申し訳ありません。
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