第78話 対面(1)

 馬車に揺られること3日、領都へとたどり着いた。


「ようやく到着したようね」


 同乗しているリリーさんが馬車の窓から外を見てそうつぶやく。

 私としても、ようやくという言葉に心から同意する。

 なぜなら、エリーたちの手によって、久しぶりに貴族的な服装に着替えさせられているから。


 私としては、いつもどおりの格好で、なんならオニキスやスノウに乗せてもらって移動したかった。

 まあ、さすがにオニキスやスノウに乗っての移動についてはエリーに速攻で却下されてしまったけれど。

 それでも、道中の服装くらいはいつもの楽な格好でいることを許して欲しかったよ。



 領都の門をくぐり抜け、街の中を馬車が進む。

 侯爵家の馬車だからか、その進みはとてもスムーズだ。


「それで、結局どうするかは決めたの?」


 対面に座るリリーさんが尋ねてくる。

 隣に座るエリーも聞こえているはずだけれど、特に口を挟むつもりはないらしい。


「まだ何も決めていません。

 正直、父であるラビウス侯爵から話を聞かない限りは判断のしようもありませんし」


 まあ、オニキスやスノウたちを見捨てるようなことはしたくないと考えているくらいだろうか。

 犯人たちが言っていた第三王子の婚約者というのはどうだろう?

 私的にはそういう窮屈な生活は向いていないと思っているけれど、それを命じられてしまうと断ることは難しいかもしれない。


「貴女は何か聞いていないの?」


 私が考え込んでいると、リリーさんは黙ったままのエリーへと話を振る。


「私は何も聞かされていません。

 フェリシア様の今後については、旦那様自らお話されるそうです」


 何か新しい情報が聞けるかと少し期待したけれど、エリーの答えはあっさりしたものだった。

 まあ、ここまでの道中でも同じような回答を聞いていたので仕方ないのかもしれないけれど。






 ラビウス侯爵家の屋敷に到着し、応接室へと通された。

 オニキスに乗って移動していたケルヴィンさんも合流し、室内には私の他にケルヴィンさんとリリーさん、エリーが滞在している。

 ちなみに、護衛依頼に関しては屋敷に到着した時点で完了扱いになっているのでケルヴィンさんたちも席に着いている。



「待たせてすまない」


 エリーが用意してくれたお茶を飲んでいると、父であるラビウス侯爵が応接室へと入ってきた。

 後ろには家令のクラウスが付き従っている。


 席に着いたところで、侯爵が口を開く。


「まずはケルヴィン殿、リリー殿、ここまでの護衛依頼を引き受けてくれたこと、感謝する。

 西部での復興作業もパーティーで協力してくれると聞いているし、そちらの働きも期待しているよ」


「いえ、受けた依頼をこなしただけですので気にしないでください。

 復興協力についても、パーティーメンバーの事情に付き合ってのことですから」


「いや、その事情に関しても、元を辿れば第三王子や我が家の人員が不十分だったことから来ているからな。

 有力な冒険者パーティーの協力は助かるよ」


 ケルヴィンさんがやけに丁寧な話し方をしたので、思わず顔を見てしまう。

 すると、ケルヴィンさんに軽く睨み返されてしまった。

 見慣れたとはいえ、普通に怖いのでやめてほしい。



「フェリシアも色々と苦労をかけたな」


 驚きと怖さでキョドっていると、こちらに話が振られてしまった。


「あっ、いえ」


 なんと返すべきかわからず、ついでに心の準備も出来ていなかったので微妙な返事しか返せない。


「アリシアが亡くなった直後だったというのに、王家から無茶を言われたせいでろくに構ってやることもできなかった。

 その結果、あのような馬鹿者にかき回されるような事態になってしまい、本当にすまないと思っている」


 そう言って、侯爵が私に向かって頭を下げる。


「は、はぁ」


 正直、頭を下げられてもどう反応していいのかわからない。

 怒るべきなのか、あっさり受け入れるべきなのか。

 たぶん怒るべきなのだろうけれど、父である侯爵との係わりが薄いせいでイマイチこの人の責任だという実感がない。


 それに、事件のあらましを聞いた限りでは、あの勘違い使用人が勝手に暴走したというイメージが強いし。

 まあ、彼以外にも悪事に加担した人間がいたみたいだから、もっと部下の管理をしっかりしろとは思うけれど。


「既に聞いているかもしれないが、今回の件に関わった者たちの処罰は既に終えている。

 帝国の息がかかった商会についてだけは、まともな処罰を与えることが出来なかったのが残念だがな」


「はぁ」


 これに関しては本当に返しようがない。

 正直、犯人たちに関しては捕縛されて連行された時点で私の中では終わったことになっている。

 無罪放免で自由の身になっているのならともかく、事件に関わった人たちは犯罪奴隷に落とされたと聞いているしね。


 そういう意味では、帝国の商会に関してだけは気がかりではあるけれど、侯爵家の力でどうにもならなかったものを私がどうこう出来るとも思えない。

 せいぜいが身の回りに気をつけることくらいしか対処のしようがないと思うし、そのあたりのことをしっかりと対応してくれればそれでいいと思う。

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