第75話 騒動を終えて(1)
「うぅん……?」
周囲のざわめきによって目を覚ました。
一瞬、自分の今の状況がわからなくて戸惑ってしまったけれど、寝ぼけまなこの視界に映る周囲の光景から次第に昨夜の記憶がよみがえってくる。
そういえば、犯人たちを捕縛した後、ギルドからの応援を待つために森から出て街道のそばで夜営することになったんだった。
まあ、私は街道に出るまで頑張ることができず、運んでくれたスノウの背中の上で眠ってしまったのだけれど。
「おはよう、スノウ」
ひとまず経緯を思い出すことが出来たので、スノウの背中から下りて朝のあいさつをする。
スノウも既に起きていたようで、私の声に反応して頭を寄せてきた。
それを抱きしめるように撫でていると、背後から声をかけられた。
「起きたみたいだな、嬢ちゃん」
「あっ、おはようございます、ケルヴィンさん、リリーさん」
振り向いて、こちらへとやって来たケルヴィンさんとリリーさんにあいさつを返す。
まだ早朝の早い時間だというのに、既にギルドからは犯人たちを護送するための応援がやってきているらしい。
一瞬、そちらへの対応は大丈夫なのかと思ったけれど、だからこそ私への説明のためにケルヴィンさんたちがやったきたのだろう。
ティナさんは応援に来た人たちの相手をしているようだし。
「とりあえず、ティナや応援に来た奴らはすぐに町へと出発するらしいが、嬢ちゃんはどうする?
一応、俺とリリーが護衛につくことになったから、無理にあっちと行動を合わせる必要はないが」
「別行動をとるということですか?」
「そうなるわね。
ティナたちと一緒の方が良いのであれば、そうしても構わないけど、それだと忙しないでしょう?
尋問した限りだと、ここから狙ってくるような仲間もいないみたいだし、私たちが護衛につくなら無理に急ぐ必要もないのよ」
「あいつらに合わせると保存食を詰め込んでそれで終わりだろうしな。
昨日から何も食っていないんだろう?」
「いえ、別に私はそこまで食いしん坊じゃないですよ!?」
けれど、私の反論とは裏腹に、お腹からはくぅ~という音がなってしまう。
「ふふっ、食欲があるのはいいことよ」
リリーさんの言葉に、私は顔を真っ赤にしながらうなずくことしか出来なかった。
リリーさんが用意してくれた朝食を食べ終え、少し休憩してから私たちも町へと出発することになった。
ちなみに、スノウたちもリリーさんが出してくれた高級な魔物のお肉を美味しそうに食べていた。
「なんで、馬車を残してもらわないのよ……」
出発する直前になって微妙な問題が見つかったらしく、リリーさんの呆れたような声が聞こえる。
どうやら、ギルドから応援に来た人たちが持ってきた馬車が残されていなかったらしい。
「いや、あいつらがいれば馬車は不要だろ。
その方が早いだろうし」
「一晩経ったからって、この子もまだ疲れていることくらいわかるでしょうに。
まったく、最近はマシになったかと思っていたのに、思い出したかのように抜けたことをするんだから、このバカは」
そう言って頭を振るリリーさんに対し、ケルヴィンさんは気まずそうな顔をしている。
まあ、疲れているかいないかで言えば、まだ少し疲れているのだけれど、正直、睡眠をとったことでかなり回復したのでそこまで問題にはならないと思う。
昨日も、限界が近かったのは眠気や精神的な疲れだったのだし。
「私は別に構いませんよ。
乗せてもらうスノウには少し申し訳ないですけれど」
そう告げる私に対し、スノウが気にするなとでも言うように頭をすり寄らせてくる。
それを撫でていると、今度はアッシュとアクアが同じように撫でろと言うように近づいてきた。
その要求に応え、同じように撫でていると、諦めたようなリリーさんの声が聞こえた。
「はぁ、まあいいわ。
次からは気をつけなさいよ、ケルヴィン」
「お、おぅ」
そんなやり取りがあったものの、ティナさんたちに遅れること数時間、私たちも町への移動を開始することになった。
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