第74話 救援

「おや、時間切れのようですね。

 すでに捜索されているという話は聞いていなかったのですが」


 私を含め、皆が呆然としている中、実力者の彼がそんなことを小さくこぼしてため息をつく。

 それを聞いて周囲の気配を探ったところで、森の奥から猛スピードで駆けてくる気配に気付いた。



「スノウ!!」


 程なくして森の奥から姿を現したスノウへと駆け寄る。

 動いた私に対して犯人たちが一瞬反応したけれど、スノウの巨体を警戒しているのか、止められることはなかった。



「無事だったか、嬢ちゃん!」


 しばらくの間、私をかばうように立つスノウと一緒に犯人たちと睨みあっていると、スノウがやって来た方向からケルヴィンさんとリリーさんが現れる。


「フェリシアさん、大丈夫ですかっ!?」


 それにやや遅れてティナさんも現れ、ケルヴィンさん、リリーさんを押しのけるように駆け寄ってきて抱きしめられた。

 ほぼ同時に現れたアクアとアッシュも同じように駆け寄ってきてくれている。


 妙に落ち着いている実力者の彼のことだけ気になるけれど、ひとまず助かったと考えてもいいのかもしれない。




「えっと、皆さんで探してくれたのですか?」


 しばらくなすがままになっていたものの、ティナさんから解放されたのでケルヴィンさんたちに確認の言葉を投げる。


「ああ、嬢ちゃんの馬が町に駆け込んできたみたいでな。

 それで嬢ちゃんに何かあったことはわかったんだが、屋敷に行っても少し争ったような痕跡があるだけで嬢ちゃんの行方はわからなかったんだ」


「しかも屋敷の中にも入れなかったからね。

 正直、夜になって暗くなっていたし、屋敷の前で途方にくれていたんだけど、この子たちが門の奥から出てきてくれたのよ」


「狩ってきた獲物を咥えてたから、一瞬魔物が出てきたのかと思ったがな。

 で、その後は、こいつたちに事情を説明して、嬢ちゃんの魔力と匂いを頼りに追跡してもらったというわけだ」


 そんな風にケルヴィンさんとリリーさんが説明してくれた。

 そのおかげで事情はわかったけれど、途中で気になっていたことを確認する。


「オニキスは無事なのですか?」


「ん?

 ああ、毒の矢を射られていたみたいだが、無事だぞ。

 魔物向けの強力な麻痺毒だったみたいだが、今は、門番たちの詰め所に併設された厩舎で身体を休めているはずだ」


「良かったぁ……」


 ケルヴィンさんの口からオニキスの無事を聞いて安心する。

 射られた矢のことが、とても不安だったから。




「さて、嬢ちゃんの不安や疑問も解消されたところで、こいつらのことを片付けるか」


「そうですね。

 先ほどギルドマスターに連絡したところ、ラビウス侯爵家が今回の件に関わっていないことが確認できたそうですから、気にせずやってしまってください。

 ただ、賊に関しては背後関係を洗うために、できるだけ生きたまま捕らえてほしいそうです」


「妙に腕の立ちそうなのが1人いるけど、まあ私とケルヴィンの2人がかりなら問題ないでしょ。

 夜も遅いし、早く休みたいからさっさと片付けてしまいましょう」


 ケルヴィンさんが切り出したところで、ティナさんとリリーさんがそれに続く。

 説明を聞いている間にティナさんが何かしていると思っていたけれど、どうやらギルドに連絡を取っていたらしい。


 妙に強そうな男が1人含まれているのが不安だったけれど、ちゃんとリリーさんも把握しているみたいだし、問題ないのかな?



「うぅっ……。

 うん、なんだお前らはっ!」


 そんなことを考えていると、吹き飛ばされていた某使用人さんが目を覚ましたらしい。

 起き上がり、周囲の様子を見てわめきだした。


「あぁ?」


 けれど、ケルヴィンさんの威圧で一気にその勢いが失われる。

 まあ、かなり厳つい顔をしているからね。


「貴方のこともラビウス侯爵家から聞いていますよ。

 どうやら、フェリシアさんに使われるはずだったお金を私的に使い込んでいたようですね」


「なっ、なぜ、それをっ!?」


「なぜも何も、貴方、かなり杜撰なことをしていたのでしょう?

 フェリシアさんがさらわれたことで問い合わせると、すぐに貴方の悪事が発覚したそうですよ?」


 あぁ、やっぱりすぐにバレるような雑なことしかしていなかったのね。

 予想通り過ぎて、今まで騙されていた私がバカみたいに思えて悲しくなるよ。


「くっ、だがここでお前たちを片付ければ、まだ間に合うはずだっ!

 おい、やっちまってくれっ!!」


 そんなことを言って実力者の人に声をかける。

 それに反応して、ケルヴィンさんたちが身構えるけれど、実力者の彼はやる気がないらしい。


「なぜ、私がそのようなことを?

 私の役目は貴方たちが商品を探すお手伝いをすることだけです。

 ギルドや侯爵家から貴方たちを守るためではありません」


「うん?

 お前は抵抗しないということか?」


「ええ。

 そもそも、私どもの商会は商談に来ただけで、今回の騒動とは関係ないですからね」


「……さすがに、それは無理があるんじゃない?

 誘拐の現場に居合わせた以上、貴方も共犯という扱いからは逃れられないと思うけど?」


「ははは、まさか侯爵家のご令嬢の誘拐の共犯など。

 そんな恐ろしいことに私どもの商会は関わりませんよ。

 今回の件は、彼によってだまされただけですから」


 そう言って、某使用人をにらみつける。

 明らかに無理のある言い分だと思うのだけれど、彼の様子からはそれで問題ないという妙な自信が感じられる。


「……まあいい。

 お前が共犯なのか、巻き込まれただけなのかを判断するのは俺たちじゃないからな。

 だが、とりあえずはお前も他の奴らと同様に捕縛させてもらう」


 裏切られたとばかりに絶望的な表情を浮かべている某使用人をよそに、ケルヴィンさんが犯人たちの捕縛に動きだす。


 結局、言葉通り抵抗することのなかった実力者の彼を含め、何事もなく無事に犯人たち全員を捕縛することが出来た。

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