第73話 追い詰められる
「くぅぁっ」
吹き飛ばされた衝撃で地面を転がり、木の幹にぶつかって止まった。
痛みをこらえて起き上がるけれど、どうやら転がっている最中に隠蔽のマントが脱げてしまったらしい。
犯人たちの視線がまっすぐに私の姿を捉えている。
「まったく、手間をかけさせてくれたなっ!」
周囲を犯人たちに囲まれ、逃げ場がなくなったところで男が1人、私の前まで出てきた。
その声に顔を上げるものの、知らない顔だ。
少なくとも屋敷まで私を捕まえに来た男ではない気がする。
「謝罪の1つでもしたらどうなんだ、くそガキがっ!」
私がキョトンとした表情で見ていたことが気に食わなかったのか、そんな言葉と共に殴られてしまった。
けれど、先ほど吹き飛ばされた一撃とは比較にならないほど力が弱い。
正直、身体強化魔法のおかげでほぼノーダメージなのだけれど、平気なフリをすると逆上させてしまいそうなので殴られた頬を押さえてうずくまっておく。
すると、私が取ったその態度に気を良くしたのか、前に出てきた男がペラペラとしゃべりだした。
それによると、彼はラビウス侯爵家の使用人らしい。
つまり、今回、私をさらおうとしたのはやはりラビウス侯爵家だったということだ。
――そう思っていたのだけれど。
「おいっ、聞いているのか」
「あっ、はい」
どうやら、話を聞いているうちに彼の独断だったらしいことがわかった。
いや、きっかけとしては彼が仕える第四夫人こと、元王女様らしいけれど。
そもそも、私は別にラビウス侯爵家に捨てられたわけではなかったらしい。
あの屋敷での生活に必要な諸々を手配するためのお金をこの男が横領したために、侯爵家が捨てたということにしたみたいだ。
というか、この男は私をあの屋敷に放置すれば、そこで勝手に死ぬことになるだろうと思っていたらしい。
私が侯爵家に対してギルドを通して問い合わせをしたのを天才的な機転で切り抜けたといっているけれど、さすがに屋敷に置き去りにするだけで死ぬと考えるのは無理がある気がする。
仮に、本当にか弱い本物の貴族令嬢であったとしても、放置し続けられれば町まで助けを求めに行くと思う。
道がないというのであればともかく、町まで続く道が通っているのだから。
けれど、これに関しては私がズレていたらしい。
貴族、平民問わず、まともな子供が魔の森に足を踏み入れることはないらしいので。
……口にされるまで忘れていたけれど、確かにあの屋敷は魔の森の中にあるのよね。
町までの道で魔物に一切遭遇したことがないから、ほとんど気にしていなかったけれど。
まあ、それを考慮してもこの男の考えは浅はかとしか言いようがないと思う。
たしかに魔の森の中を通るというのは恐怖を覚えるかもしれないけれど、屋敷の中で1人飢えに抗うのも相当な恐怖だと思うから。
それを考えると、屋敷に残ることに耐えられず、魔の森を抜けて町まで助けを求めに行く可能性もかなり高いと思う。
まあ、そんなはた迷惑な彼なわけだけれど、どうやらずっと私の管理を侯爵家から任されていたらしい。
いや、元王女様のお付きなのでは?と思ったけれど、何故か侯爵家の中での評価は高いらしい。
自称だけれど。
で、そんな優秀な彼が私の担当もしていたわけなのだけれど、このたびの西部の復興に関連して私を侯爵家に呼び戻すことになったらしい。
衝撃的なことに私が第三王子様の婚約者候補になったから。
いや、放置子を王子様の婚約者候補になんてしないで!?
まあ、父である侯爵本人は普通にあの屋敷で貴族教育が進んでいると思っていたのかもしれないけれども。
そんなわけで、私を呼び戻す必要が出たものの、既に私に対して勝手に生きろと言い捨てているわけで。
加えて、実際に呼び戻すと私に対する諸々の費用の使い込みもバレてしまう。
だったら、むかつく生意気なガキを売り飛ばしてそのお金で他国に逃げてやろうと考えたらしい。
いや、バカなの?
最初の段階から色々と破綻しているし、なぜそんな計画が上手くいくと考えたのか。
というか、結果的にその破綻を私の行動がフォローするような形になっていたのが腹立たしい。
どう考えても、何か1つ違っただけでその悪事は露呈していますよね!?
「……そろそろいいですか?
私としては手枷の回収を早く終わらせたいのですが」
あいかわらず悦に入ってペラペラとしゃべり続けている男に対して心の中で突っ込みを入れていると、話をさえぎるように別の男が割り込んできた。
彼の顔も誘拐犯の中には見なかったけれど、彼もラビウス侯爵家の人間なのだろうか?
さっき私を吹っ飛ばしたのが彼で、正直、犯人たちのなかで1人だけ纏っている空気が違うのだけれど。
明らかな強者というかなんというか、目の前の男や屋敷に来た犯人たちに混じっていると、とてつもない場違い感を感じてしまう。
「ん?ああ、すまない。
おいっ、お前につけていた手枷はどうした?」
口を挟まれたことで正気に戻ったのか、早口でまくし立てていた言葉が止まり、私に対して詰問してくる。
「手枷?」
もしかしなくても、あの魔力封じの手枷のことだろうか?
あれは、未だにアイテムボックスの中に入ったままになっている。
さすがにこの場で取り出すわけにもいかないし、どうしよう?
「……外した後に森の中に捨てました」
上手い言い訳が思いつかなかったので、無難に捨てたことにしてみた。
「捨てた?
あれはとても貴重な魔道具だったのですが、本当に捨てたのですか?
そもそも、どうやってあの手枷を外したのですか?」
けれど、質問してきた強そうな男は納得してくれなかったらしい。
さらに質問を重ねてくる。
「え、えーっと、思い切り魔力を込めると壊れましたよ?
なので、壊れた手枷を森の中に捨てたのです」
「おかしいですねぇ。
彼らに渡す前に、手枷に不備がないことは確認していたはずです」
そう言って、さらに言葉を重ねようとしたところで、自称優秀な使用人様が詰め寄ってきた。
「おいっ、テキトーなことを言うなっ!
あの魔道具はお前ごときが魔力を込めたくらいで壊れるものかっ!!
さっさと本当のことを言えっ!!!」
そんなことをわめきながら私へと迫る。
瞬間、森の奥から飛来してきた氷の塊によって彼は吹き飛ばされていった。
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