第72話 逃走

「おいっ、まだ見つからないのかっ!」


「さっき確認した感じだと、そろそろ追いつくはずだ!」


 道のほうからそんな声が漏れ聞こえてくる。

 隠蔽のマントを被り続けていたから大丈夫かと思っていたけれど、あちらには私の位置を知ることができる何かがあったらしい。

 そのことを理解し、物音を立てないように森の奥へと足を進める。

 直後、後方から犯人たちの叫ぶ声が聞こえてきた。


「いたぞっ!

 森の中だっ!!」


 瞬間、物音や痕跡を隠すことを考えることなく全力で走りだした。




「はぁ……、はぁ……」


 全力で森の中を駆ける。

 途中途中で結界の魔法陣を使って足止めを図っているけれど、残念ながら余り効果は出ていない。

 相手の目の前に作り出すことが出来るのであればともかく、離れた位置に結界を張っても少し迂回されるだけでかわされてしまうから。


 とはいえ、少しは希望が持てる情報もある。

 私の位置を調べている方法が魔道具によるものだということだ。

 しかも使っている魔道具はそこまで性能が良いわけではないらしく、常に位置を把握しておくことが出来ない上、その精度もそこまで良くはないらしい。

 そのおかげで、どうにか今も逃げ続けることが出来ている。


 ……まあ、それも限界が近づいているのかもしれないけれど。

 最初のころは一団になって追いかけてきていた犯人たちが、今では横に広がって囲い込むように追いかけてきているから。



「何か、使えるものって、あったっけ?」


 走りながら、状況を好転させる何かがないかと必死になって探す。

 けれど、その何かを思いつく前に後方から魔法が放たれる気配を感じとった。


「!?」


 すぐさま、後ろを振り返って警戒する。


 幸い、狙いが粗かったおかげで、放たれた火の矢は私に当たることなく離れた位置にある木を焦がすだけで終わる。

 そのことに安堵したものの、気付けば足を止めてしまっていた。


「すぐそこの木の前だ!

 狙えっ」


 直後、索敵を担当していた男から発せられた言葉に反応し、左右から再び火の矢が飛んでくる。

 慌てて結界の魔法陣をばらまいて火の矢を防ぐ。

 続けて、一緒に取り出した閃光の魔法陣を使って目潰しを狙いつつ、再びの逃走を図った。


「うぉっ!?」


 背後で聞こえる声から足止めに成功したことを理解し、距離を稼ぐために全力で足を動かし続けた。






「!?」


 閃光の魔法陣でかなりの距離が稼げたので、少し余裕が出たと思い始めたところですぐ近くを魔法が通り過ぎていった。

 慌てて後ろを確認するものの、犯人たちとの距離は詰まっていない。

 けれど、すぐさま私に直撃するコースで再び魔法の矢が飛んできた。


「くっ」


 即座に結界の魔法陣を使って魔法を防ぐ。

 しかし、その動きで再び私の位置が把握されてしまったらしい。

 魔法を放ってきた男以外の犯人たちが一気にこちらへと反応したのを感じる。


 それに気付き、再び距離を稼ぐために魔法を使うことを決める。

 森の中を逃げ始めて以降、身体強化の魔法に索敵の魔法と、魔力を使いっぱなしになっている。

 なので、あまり大量に魔力を使う魔法は使いたくないのだけれど、捕まってしまうわけにはいかないので仕方ない。


「アイスウォール!!」


 可能な限り広範囲に氷の壁を出現させ、再び全力で逃げるために足に力を入れる。

 けれど、直後に背後から氷の砕ける音が聞こえてきた。


「えっ!?」


 驚きに足を止めて後ろを振り返ってしまう。

 範囲を優先したために強度は多少下がってしまったかもしれないけれど、結界の魔法陣で出した結界よりは強度があったはずなのに。


「おや?

 この程度のことで足を止めるとは、思ったよりも荒事の経験がなかったようですね」


 そんな声が聞こえた瞬間、強い衝撃を感じて吹き飛ばされていた。

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