第71話 夜の道を進む
馬車を脱出してからどれくらい経ったのだろうか?
かなりの時間を歩き続けている気もするけれど、周囲の景色にほとんど変化がないこともあって正確なところはわからない。
空を見上げても、変わることなく綺麗な月が浮かんでいるだけだし。
まあ、この綺麗な月が見えるおかげで、夜も遅い時間にもかかわらず、灯りを持たずに歩くことが出来ているのだけれど。
「あと、どれくらいでたどり着くのかなぁ」
足を止めずに歩き続けながらつぶやく。
体感だと既に1時間以上は歩き続けている気がするけれど、馬車で運ばれていた時間を考えると、それでもまだ半分も戻れていないような気がする。
「いっそのこと、体力が続く限り全力で走り続けたほうが良かった?
力尽きたら、その場所で夜営するような感じで」
夜を徹してでも歩き続けるつもりだったけれど、自分の体力を過大評価していたかもしれない。
このままだと、屋敷や町へとたどり着く前に限界を迎える気がする。
「とはいえ、向こうの出方がわからない以上、できるだけ足を止めたくはなかったのよね。
そもそも、追われている状況で満足に休めるかもわからなかったし」
夜営して身体を休めるとしても、そのときの安全が確保できていなければまともに休める気がしない。
常に追っ手を意識してろくに休むことが出来ないのであれば、無理してでも歩き続ける方がマシな気がする。
まあ、だからこそ夜通し歩き続けることを選択したわけなのだけれど、早々に頓挫しそうになっているのがツライ。
「……とりあえず、本当に限界になるまでがんばってみましょうか」
苦しくなってきたとはいえ、まだ本当の限界というわけではない。
なので、気力を振り絞って足を動かし、移動を続けることにした。
「……そろそろ限界かも」
あれから黙々と足を動かして移動を続けたけれど、さすがにそろそろ本当に限界かもしれない。
体力的なものは身体強化の魔法によってまだ余裕があるけれど、眠気や精神的な疲れがかなりギリギリになっている。
「魔法で眠気や精神的な疲れも失くすことが出来ればいいのに」
おそらく、イメージさえ出来れば魔法で対処することも可能だとは思う。
もっとも、私はそのような魔法の訓練はしていないし、今から試すとしても眠気や精神的な疲れを失くすようなイメージが出来ないので使うことはできないだろうけれど。
「……あー、でも短時間だけ睡眠をとるくらいのことであれば魔法でどうにかできるかも?」
一瞬、良い案ではないかと思ったけれど、よく考えてみると眠っているときの魔法の扱いがどうなるのかがわからない。
仮に目覚ましのような魔法をイメージするとして、眠っている間もきちんと魔法が継続してくれるのであれば問題ないけれど、もし魔法の効力が切れてしまったらそのまま自然に目が覚めるまで眠り続けることになってしまう。
魔法はイメージ次第なので、イメージさえしっかりとしていれば睡眠中も問題なく効力を持つだろうけれど、さすがに今のような状況で訓練もなしに試してみようとは思わない。
「そうなると、素直に足を止めて少しの休憩を取るのが一番マシなのかしら?」
正直、かなりギリギリの状態になっている気がするので、足を止めただけで緊張の糸が切れてしまうかもしれない。
とはいえ、限界が近いというのも事実なわけで。
どういった行動をとるのが最良なのかを考え、早急に決断しなければいけないみたいだ。
「ん?」
そんなことを考えていると、後方から近づく何かの気配に気付いた。
念のために定期的に後方に向かって魔法を放っていたのだけれど、それに何かが引っかかったらしい。
「まさか追手?」
立ち止まり、後方から近づく気配の詳細を調べるために改めて魔法を放つ。
すると、後方からかなりの速度で駆けてくる複数の馬の気配を確認することが出来た。
「もう追いつかれたの!?
こっちは限界が近くて余裕がないのにっ!」
そんなことを愚痴ってみるけれど、追いかけてきた犯人たちが聞いてくれるはずもない。
「……とりあえず、見落としてくれることを信じて隠れることにしましょう」
そう決めて、静かに森の中へと入り、道の様子が確認できるギリギリの位置から様子をうかがうことにした。
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