第67話 脱出に向けて
(とりあえず、この麻袋から出て時間を確認しましょうか)
このまま考え続けても答えが出ない気がするので、さらなる情報を求めて身動きの取れない状態を解消することを決める。
まずは手枷を外すところからかな。
(……壊れない)
集中して魔力を練り上げ、可能な限りの身体強化魔法を使ったにもかかわらず、手枷は壊れてくれなかった。
(いやまあ、考えてみると当たり前か。
いくら魔力を封じる機能があるとはいえ、大の大人が少し力を込めたくらいの力で壊れたら意味がないだろうし)
残念なことに今扱える魔力量では大人よりも少し強いくらいの力しか出すことが出来ない。
何なら、力自慢が素の状態で出せる力にも劣るくらいかもしれない。
(まあ、身体強化の魔法は自身の力がベースになるからね……)
ベースとなる私の素の力が貧弱過ぎるせいで、手枷を壊せるほどの強化をすることが出来ない。
というか、手枷を壊すのであれば、魔力に制限がない状態で全力で身体強化をかけるくらいのことをしないと壊れないのではないだろうか。
(どうしよう……。
なんとなく、身体強化の魔法であっさり壊れてくれると思っていたのに)
まさか、脱出以前の段階でつまずくことになるとは思っていなかった。
馬車から出るときのことばかり考えていたけれど、まずは手枷を外す方法を考えないといけなかったなんて。
(魔法で壊す?それとも魔法で鍵を作り出して手枷を外す?)
どちらも難しい気がする。
魔法で壊す方なら不可能ではないと思うけれど、周囲に気付かれずに壊せるとは思えない。
鍵を作る方に関しては、そもそもどんな手枷かがわからないので作りようがない。
(……もしかしてアイテムボックスにしまえたりする?)
しばらく手枷を外す方法を思案した結果、その考えに行き着いた。
(問題は、魔力を抑えられた今の状態でアイテムボックスの魔法を使うことができるかどうかなのだけれど)
アイテムボックスの魔法は最初に空間を用意するときに大量の魔力が必要になるだけで、出し入れに関してはそこまで魔力を必要としない。
ただ、いくら少ない魔力で発動できるとはいえ、手枷で抑えられた今の魔力で発動できるかは微妙な気がする。
(まあ、試してみるしかないか)
身体強化の魔法で壊せなかったときのように、アイテムボックスの魔法でもダメだった場合はまた別の方法を考えないといけない。
なので、まずは試してみることにしましょう。
慎重に魔力を練り上げ、アイテムボックスの魔法を発動させる。
(くっ、失敗した)
発動させようとした瞬間、練り上げた魔力が消失してしまった。
とはいえ、手ごたえとしては悪くなかったように思う。
もう少し魔力を多く練り上げるか、イメージをより明確にして魔力効率を上げれば使えそうだ。
(もう一度)
少し間をおいてから、先ほどよりも多く魔力を練り上げるように集中する。
その魔力を使い、より明確なアイテムボックスの魔法をイメージし、これまで使ってきた経験を思い出して成功することを強く意識する。
そのイメージが固まったところで魔法を発動させた。
(成功した!?)
瞬間、魔法が発動した感覚があり、手首にはめられていた手枷の感触が消えていた。
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