第66話 思案する

 時間はかかったものの、どうにか周囲の確認を終えることが出来た。

 結果、どうやら私をさらった犯人は3人組らしい。


 馬車の御者役が1人に、馬に乗った周囲の警戒役が2人。

 魔法で探った範囲の外にいたらわからないけれど、できるだけ範囲を広げたから別行動を取っていない限りは犯人の数が増えることはないと思う。


 まあ、屋敷で待ち構えていた2人に、別の場所に待機していた御者役が1人と考えれば素直に納得できる人数だと思う。

 私に対する見張りが居ないことからも、少数による犯行である気がするし。




(確認はできたものの、どうしようかな?)


 ひとまず、馬車が走っている間は、馬車の中なら多少は自由に行動できる気がする。

 この馬車は幌馬車みたいなので、周囲を走る警戒役からは行動を見咎められることはないし、馬車が走る音のおかげで多少は音を立てても問題ないと思う。

 なので、今の身動きが取れない状態を解消することも不可能ではないと思う。


 ただ、今すぐに手枷を外して逃げ出すべきなのかの判断がつかない。

 さすがに、このままおとなしくしているよりは、逃げ出す機会がある今の内に逃げ出したほうが良いとは思う。

 けれど、そのタイミングをどうするのかというところが問題になってくる。



 隠蔽のマントを使うことで私自身の姿を隠すことは出来るけれど、残念ながら周囲の動きまで隠すことはできない。

 なので、馬車から出ようとすると荷台の幌が不自然に開くことになって、周囲を警戒する犯人たちの目に留まってしまう気がする。


 それに、上手く幌の動きを隠せたとしても、走っている馬車から周囲に気付かれることなく飛び降りるようなことが出来るとも思えない。

 身体強化の魔法を使えば飛び降りること自体は可能だと思うけれど、そのときの衝撃やら音やらをうまくごまかすような器用なマネはできないだろうし。


 もし、逃げ出すときに犯人に気づかれてしまうと、私では逃げ切ることは難しいと思う。

 荒事に慣れているであろう犯人たちと戦って勝てるとも思えないし、隠蔽のマントでやり過ごすにしてもバレた状態からでは厳しいだろうから。



(どうにかして私から、というか馬車から注意をそらすことが出来ればいいのだけれどね)


 理想を言えば、馬車の前方に注目が集まってくれるのが一番いい。

 そうすれば、馬車の後ろからこっそり脱出して、走り去る馬車とは反対方向に逃げることが出来るから。


 そんな都合のいいことが起きるのかとも思うけれど、今走っている道はおそらく魔の森の近くを通っている。

 正直、なぜそんな危険なところに道が通っているのかとも思うけれど、私にとっては都合がいい。

 魔の森から魔物が出てくれば、そちらに注意がそれてくれるだろうから。



 他に注意がそれた隙に脱出するのが一番とはいえ、それにこだわり過ぎてしまうと逃げ出す機会自体を逃してしまいかねない。


 今が何時なのかはわからないけれど、屋敷に着いたのが夕方になる頃だったから、おそらく既に夜になっていると思う。

 となると、この馬車がどこに向かっているのかはわからないけれど、おそらくはどこかのタイミングで夜営することになるはずで。

 そうなると、さすがに私の様子も確認されることになると思う。

 なので、それ以前に逃げ出していたのであれば、そこで私の逃走が発覚することになる。


 当たり前だけれど、逃げ出すのであれば、その発覚は遅ければ遅い方が良い。

 発覚までの時間が長くなればなるほど距離を稼ぐことができるだろうし、逃げ出したときの痕跡も分かりにくくなって見つかりにくくなるだろうから。



(そう考えると、今日の脱出を諦めて明日の移動時に脱出するという手もなくはないけどね)


 ただ、これに関しては今日の移動で目的地に到着しないことが前提になる。

 もし目的地に到着してしまうと、今よりも状況が悪化して逃げ出す機会を失う可能性があるのだから。


(一応、より逃げ出しやすい環境になる可能性もあるけれど、さすがにそれは楽観的過ぎるだろうしね……)


 となると、出来るだけ早く逃げ出すのが正解な気がする。

 けれど、焦って逃げ出して犯人たちに気づかれてしまっては意味がない。


 結局、最初に悩んでいたタイミングの問題に戻ってきてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る