第65話 魔力封じの手枷

 身動きがとれない状態をどうにかするために行動することを決めたものの、念のために周囲の様子を確認しておくことにする。

 いきなり魔法を使うわけにもいかないので、まずは耳をすませて周囲の音を拾っていく。



(……近くには誰もいなさそうね)


 馬車が走る音に邪魔をされているので絶対とはいえないけれど、おそらく私に対する見張りはいないと思う。

 これについては、暴れるようにもがいていたにもかかわらず無反応だったことからの推測も入っているけれど。


 正直、幼い女の子1人だからといって油断し過ぎな気がしないでもない。

 オニキスを逃がすときに魔法陣を使って抵抗しているし、もっと警戒しても良さそうに思えるのに。

 ……まあ、麻袋に詰め込んで猿轡と手枷をしていれば、普通は充分すぎるのかもしれないけれど。


 何にせよ、周囲に人が居なさそうなことがわかったので次の行動に移ることにする。

 具体的には、魔法を使ったより詳しい確認だ。

 近くに犯人がいた場合は、魔法の気配に反応されて状況が悪化する可能性もあったけれど、いないのだから自由にやらせてもらいましょう。


 という訳で、さっそく犯人たちの正確な位置を探るための魔法を発動させる。


(えっ、発動しない!?)


 というよりも、魔力がまともに練り上げることが出来ない。


(えっ、なんで?)


 必死になって魔力を練り上げようとするものの、一向に魔力が練られる気配がない。

 そのことに焦り、周囲のことなど忘れて全力で魔力を練り上げる。

 それでようやく魔力を練り上げることが出来た。



(魔力を封じる手枷か……)


 魔力が練れたことで冷静になり、原因に思い当たった。

 実際、魔力を練り上げるときに手枷を意識してみると、そこで魔力の流れがおかしくなっていたので間違いないと思う。

 どうやら、この手枷は体内で練り上げた余剰魔力を吸収してしまうらしい。


 魔力を封じる魔道具の類は国が管理しているはずなのに、と思ったりもするけれど、そもそも人を連れ去るような人間がまともなわけがなかった。

 後ろ暗いことをするような人なのだから、そういった違法なものを扱う世界とのつながりも持っていても不思議ではないだろうし。



(まあ、集中すればどうにか魔力を練り上げて魔法を使うことも出来そうだけれど)


 運よくというべきか、魔力を練ることに集中すればどうにか魔法は使えると思う。

 普通に考えて、魔力を封じる手枷をつけられた状態で魔法が使えるのはおかしいのだけれど、手枷で吸収される以上の魔力を練り上げればどうにかなるらしい。


 一般的に魔法使いと呼ばれる人たちの魔力量は3級か4級だし、魔力量が多いとされる貴族であってもその魔力量は3級が大半になる。

 なので、2級にまで魔力量が成長した私の魔力を抑えこむほどの手枷は用意していなかったのだと思う。


(とはいえ、好き勝手に魔法が使えるほどの余裕はないのよね。

 許容量を超える魔力を流すことで手枷が壊れてくれたらよかったのに……)


 今の状態でも魔法が使えるとはいえ、魔力を練り上げるためにかなりの集中力が必要になる。

 なので、戦いながら魔法を使うことはもちろん、動きながら魔法を使うことすら難しいと思う。


(とりあえず、今の状態で出来ることを1つずつやっていくしかないか)


 あらためて魔力を練りなおし、魔法を使って周囲の様子を探ることにした。

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