第64話 囚われの身

 ガタゴトという音と全身を揺らす振動によって目を覚ました。


「んぅ」


 真っ暗な視界の中、起き上がろうとしてもくぐもった声が出るだけで、起き上がることはおろか、まともに身体を持ち上げることすらできない。

 どうやら、口に猿ぐつわをかまされた上に、後ろ手に縛られた状態になっているらしい。



「……」


 なおも身体を起こそうともがいたけれど、上手くいかなかったので比較的楽な体勢になったところで諦めることにした。

 あと、猿轡と手枷に加え、どうやら麻袋のようなものに押し込まれている状態らしいこともわかった。

 最初は防寒具代わりに布でも掛けられているのかと思っていたけれど、状況的に全身に感じる布の肌触りは押し込められている麻袋の感触だと思う。



(まさか、問答無用で連れ去られるとはね……)


 もがき疲れたところで冷静になったので、状況を整理することにする。

 結論から言うと、今の私は馬車で連れ去られている最中なのだと思う。

 連れ去ろうとしているのは、町から帰ってきた私を待ち構えていた男たちだ。




 屋敷に帰りついた私を待っていたのは2人組の男たちだった。

 格好からして冒険者に見えたので、屋敷のある森に間違ってやってきた他所の冒険者か、ラビウス侯爵家からの伝言を伝えに来た冒険者なのだろうと思った。

 まあ、溢れから時間も経って他所の冒険者が少なくなっていたから、伝言を持ってきた冒険者である可能性が高いと思っていたけれど。


 だから、特に警戒することなく近づいてしまったんだよね。

 今思うと、オニキスは警戒していたように思うのに。



 オニキスから下りて無警戒に近づいてしまった私は、会話できそうな距離になったところで突然動いた男に腕をとられて捕まってしまった。

 突然のことに何の反応も出来なかった私とは違い、オニキスは私を助けようとすぐさま動いてくれた。

 けれど、もう1人の男が間に割り込んできたことでその行動は失敗に終わってしまう。


 そのタイミングでようやく私も抵抗することを思い出したのだけれど、そのときには私を捕まえた男の手に魔道具が握られていた。

 どうやら意識を落とすための魔道具だったようで、その魔道具が起動された瞬間、一気に私の意識がぼやけてしまい、まともな抵抗が出来なくなってしまった。


 それに気付いたオニキスがなおも私を助けようと動いてくれたけれど、意識が落ちかけている私がオニキスと一緒に逃げられるとは思えなかった。

 なので、落ちようとする意識に抗い、最後の力を振り絞って結界の魔法陣をオニキスと男たちの間にばらまいてやった。


 行動だけで意図が通じるかどうか不安だったけれど、オニキスはちゃんと私の意図を汲んで町に向かって走り出してくれた。

 それを見送り、結界を壊そうとする男たちを眺めながら意識を手放した。






 状況を整理するために起きたことを思い出してみたけれど、それで何かが変わるというわけでもない。

 変わるとすれば、逃げてくれたオニキスが町で救援を呼んでくれた場合だけれど、その場合もすぐに見つけてくれるとは限らないだろうし。

 そもそも、町に駆け込んだところでオニキス自身が説明できるわけではないので、事情を察して救援を出してもらうこと自体が難しいかもしれない。


 それに、考えたくはないけれど、オニキスが町までたどり着けない可能性もある。

 屋敷の前で待ち構えていたのは2人だったけれど、森の外にも仲間を潜ませていた場合、逃げ出したオニキスが町までたどりつくのは難しい気がする。


 加えて、オニキスは逃げ出すときに、結界を発動させる直前に射られた矢をその身に受けていたように見えた。

 私の動きに反応してオニキスと対峙していた男が放った矢だったのだけれど、袖に仕込んだ暗器から放っていたので矢に毒が塗られていた可能性が高い。

 そうなると、いくら魔物化したオニキスであっても無事であるとは限らない。


(どうにか無事に町までたどり着いていてくれれば良いのだけれど……)


 囚われの身で身動きも取れない状態では、ただ祈ることしか出来ない。

 今は、オニキスが無事に町までたどり着き、救援を寄越してくれると信じるしかない。




(とはいえ、ただ救援を待つだけというわけにもいかないわよね)


 オニキスが無事に救援を呼んでくれることを期待しているけれど、万が一のことも考える必要があると思う。

 そもそも、救援を出してもらえたとしてもすぐに見つけてもらえるとは限らないので、こちらでもできることはやっておいたほうが良いだろうし。

 思いつくものとしては、こちらの位置を知らせるための工作だったり、自力での脱出だったりとかかな?


 まあ、まずは身動きを封じられている手枷などをどうにかするところから始めないといけないだろうけれど。

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