第63話 西部の状況
「薬草の高騰理由はわかりましたが、今の西部の復興状況はどうなっているのですか?」
さっきのティナさんの言葉だと、難航している訳ではないということだったけれど。
「私も詳しいことは知らないのですが、ひとまず旧ガルディア辺境伯領の領都の復興は一段落したとのことです。
ですので、今後は領都から補給路を延ばしながら魔物の領域となった北部へ本格的に入っていくことになると思います」
「……魔物の討伐に入っていたわけではないのですか?」
「魔物の討伐も並行して進められていましたが、補給拠点となる領都の整備を優先していたようですね。
領都についても、溢れの際に深層奥の魔物に攻められて半壊していたそうですから」
なるほど、先に拠点として落ち着ける場所を作ったということなのか。
まあ、魔物の領域に入るのであれば、補給についてもしっかりしておかないと二次被害とかが起きそうだしね。
「つまり、これからが西部の復興作業の本番ということですか?」
「魔物に奪われた北部地域を取り返すという意味であれば、そうなりますね。
今までは旧ガルディア辺境伯領内に入り込んだ魔物の討伐や、領都のように被害を受けた街の建て直しを優先していたそうですから」
「そんなに多くの魔物が領内に残っていたのですか?」
「聞いた話では、広範囲にかなりの数の魔物が入り込んでいたようですよ。
溢れの際に堤防の役目を果たすべき砦が落ちてしまったことで、大量の魔物が領内に流れ込んできたそうですから。
北部の各地にあった防衛拠点についても、領内からの魔物と魔の森から来る魔物によって挟み撃ちになってしまったことで壊滅したそうですし」
挟み撃ち……。
基本的に魔の森からの侵攻を抑えるだけでも大変だという話なのに、無防備な背後からも襲撃を受けてしまってはひとたまりもないか。
「そういえば、溢れでやって来た魔物によって土地が汚染されるという話だったと思うのですが、領内に散っていた魔物たちの影響は大丈夫だったのですか?」
「ええ、魔物による汚染は基本的に深層奥の魔物によるものが大半ですからね。
なので、深層奥の魔物が通った土地は汚染が酷くなりますが、それ以外の土地に関してはそこまでではないのです。
もちろん、魔物の数が多かったり、長期的に魔物が留まることになると汚染されてしまうのですが。
旧ガルディア辺境伯領の北部に関しては、こちらを原因とした汚染が今も続いている形になります」
「大量の魔物が残っているであろう北部はともかく、領内各地に散っていた魔物による被害は大したことがないということですか?」
「そうです。
深層奥の魔物に率いられた魔物の大半は、深層奥の魔物と共に領都に侵攻したそうですから。
その侵攻に加わらなかった残りの魔物が北部を挟撃したり、各地に散っていった形になります」
「そう聞くと、領内に残っていた魔物は少なそうに思えるのですが」
「元の数が数ですからね。
魔の森から出てきた魔物の一部とはいえ、結構な数になるのですよ。
まあ、各地に散らばったことで集団の規模が小さくなって、汚染の影響が小さくなったことだけは救いかもしれませんが」
そんなに数が多かったのか……。
正直、魔物の溢れに関しては自分の目で確認したわけではないから、実感が薄いんだよね。
影響があったことといえば、屋敷に近い森の浅瀬にクマの魔物が現れたことくらいだし。
「まあ、そういった事情で今後も西部では薬草の需要が高い状態が続きそうなのです。
ですので、今後もフェリシアさんには薬草を卸してもらえるとありがたいですね」
「わかりました。
もとよりそのつもりでしたが、今後も薬草を買い取ってもらいにきます」
溢れ前に大量に薬草を買い取ってもらったおかげで、今の私は割とまとまったお金を持っていたりする。
けれど、これからのことを考えるとお金に関してはいくらあっても困らないので、できる限り薬草を売りに来ることにしよう。
なんなら、魔の森で薬草を採取して買い取ってもらう量を増やしてもいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、ギルドを後にした。
「これで、本当に逃走のための準備は一段落したかな?」
ギルドを出た後、いつもどおりマリーさんのところで昼食をとり、不足していたものを買い足した。
冒険者の町というだけあって、野営まわりの道具が充実していたために選ぶのに時間がかかってしまったけれど、ひとまずはいつでも逃げることが出来る状態になったと思う。
「ちゃんとオニキスのための飼い葉も準備したから、一緒に逃げることになっても安心だからね」
オニキスの首元をなでながらそう語りかける。
スノウたちに関しては、狩ってきてくれた獲物のお肉があるから大丈夫だったのだけれど、オニキスに関しては飼い葉がそこまで大量にあったわけではないからね。
今回の買出しで大量に買い付けておいたよ。
「本当にこのまま何事もなく過ごせるのが一番なんだけれど」
オニキスの背に揺られながら、心からそう願う。
けれど、そんな私の願いもむなしく、帰りついた屋敷の前には来客と思しき人が待っていた。
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