第62話 薬草の収穫と買い取り依頼
アイテムボックスの魔法を使えるようになって数日。
発動速度を早くしたり、消費魔力を少なくするための訓練を続けつつ、屋敷で用意できるものをアイテムボックスの中に収納し続けていた。
そのおかげで、1週間くらいは補給なしで生活できそうなくらいの物資は準備することができた。
といっても、基本的にスノウたちが狩ってきてくれた獲物を解体して収納しただけなので、野営まわりの道具に関しては買い足さなければ不便そうなのだけれど。
「逃げるための準備は着々と進んでいるけれど、やっぱりこのままここでのんびり暮らしたいなぁ。
こうして、自分で育て始めた薬草も収穫できるようになったのだし」
薬草畑の一角で収穫した薬草を手につぶやく。
荒れ放題だった最初の頃とは違い、目の前には等間隔に並ぶ畝から真っ当なサイズの薬草が伸びる光景が広がっている。
収穫できるようになったのは最初に植えた薬草たちだけだけれど、これから続々と後続の薬草たちも収穫できるようになると思う。
正直、最初の頃を思えば今の薬草畑の光景は感動ものなのだけれど、最悪、これを捨てて逃げ出さなければいけなくなるかもしれないというのが悲しい。
どうにかして、薬草畑をアイテムボックスに収納できないものだろうか?
「まあ、さすがにこのサイズを収納できるほどの容量はないのよね」
薬草畑にしゃがみこみ、地面に触れながらそんなことをつぶやく。
まあ、それ以前に地面から薬草畑だけを切り離せるのか?という問題があるのだけれど。
「……ないものねだりをしても仕方ないし、今は出来ることをひとつずつ片付けていきましょうか」
立ち上がって服の汚れを払い、屋敷へと戻る。
ひとまず、町まで薬草を売りに行って、屋敷で用意できなかった諸々の買出しを済ませてしまいましょう。
「おはようございます、ティナさん」
「おはようございます、フェリシアさん。
今日は薬草の買い取りですか?」
ギルドに到着し、いつもどおりにティナさんが担当する受付へと向かってあいさつを交わす。
さすがに溢れの終結から3週間も経てば冒険者の数も落ち着くものらしく、溢れ前と同じように待つことなく受け付けてもらえた。
まあ、午前の微妙な時間帯だからかもしれないけれど。
「はい、自分で育て始めた薬草が収穫できるようになったので買い取ってもらいに来ました。
魔素異常で異常成長していた薬草はなくなりましたが、今後は普通に栽培した薬草を買い取ってもらうことが出来そうです」
「あら、もうそんなに経つんですね。
以前に話を聞いたときは、3ヶ月くらいかかると仰っていた気がしますが」
ティナさんの言うとおり、屋敷の薬草畑での栽培には3ヶ月近くかかる。
とはいえ、異常というレベルを脱したものの未だに薬草畑の魔素濃度は高い状態なので、収穫までの時間は少し短くなっているのだけれど。
そんなことを考えつつ、ティナさんに収穫してきた薬草を渡して査定を待つ。
「お待たせしました。
今回の薬草については、一般的な3等級品でしたので、買い取り価格もそれに準ずる価格になっています。
ですが、今は西部の復興で薬草の需要が高い状況が続いていますので、普段よりも買い取り単価が上がっています。
しばらくはこの価格が続くとは思いますが、ご注意ください」
「……それはつまり、西部の復興需要がなくなると薬草の買い取り価格が下がりますよ、ということですか?」
「はい、そういう認識で問題ありません。
まあ、西部の状況はこのギルドにも入ってきますから、状況が変わるときには事前にお伝えできると思いますが」
とりあえず、私としては買い取り価格が上がる分にはありがたいので特に言うことはない。
将来的に価格が下がるかもしれないということに関しても、今回の査定を見る限り、そこまで心配する必要はなさそうだし。
まあ、そもそも普通に暮らすだけなら、そこまでお金がかかるような暮らしではないからね。
どちらかというと、はじめて収穫した薬草が問題なく買い取ってもらえたことのほうが嬉しかったし、ホッとした。
屋敷の魔道具による鑑定で真っ当な薬草だということは確認できていたけれど、心配だったからね。
「それにしても、薬草の買い取り単価が上がるほど、未だに西部では薬草の需要が高いのですね。
もしかして、復興作業が難航していたりするのですか?」
「いえ、別に難航している訳ではないと思いますよ。
単に、今まで自領内でまかなえていたものがまかなえなくなったので、各地から薬草を集めているというだけです。
一応、あちらでも薬草の栽培や採取は再開しているようですが、まだそちらよりも魔物の討伐のほうに手を取られているようですね」
そういえば、西部も有力な薬草の産地だったんだっけ。
まあ、西部に限らず、魔の森に接しているような魔素濃度が高い地域は大体薬草の産地になっていたはずだけれど。
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