閑話 第三王子の婚約者事情(1)

「よろしかったのですか?あのような条件をお出しになられて」


「構わないさ。

 侯爵にも、私の後見となった以上はしっかりと働いてもらわないといけないしね」


「いえ、さすがに婚約者の選定であのような条件を出すのは、働きどうこうの話ではないと思うのですが?」


「そうかい?

 侯爵ほどの人脈であれば、あの様な条件であってもあっさりと見つけてきてくれると思うけどね。

 それに、条件に関しては別に嫌がらせなどというわけではなく、私の心からの希望だよ」


 第三王子の執務室で、第三王子であるフィリップと側近であるハーヴィーが話をしている。

 話題になっているのは、先ほどまでラビウス侯爵を交えて話し合っていた第三王子の婚約者に求める条件についてだ。


「そんなに婚約者を決めるのがイヤなのですか?」


「別にイヤというわけではないさ。

 まあ、今までの微妙な立場のままであれば、のらりくらりとかわすことも考えただろうけどね。

 とはいえ、今の私は王国西部の復興を指揮する立場で、その後は旧ガルディア辺境伯領を新たに治めることが決まっている。

 婚約者の必要性は充分に理解しているさ」


「その割には、ずいぶんと厳しい条件だった気がしますが」


「それは当然だろう?

 必要だからといって、妥協するつもりなどないのだから。

 ハーヴィー、逆に聞くけど、君は学園で私に近づいてきたような令嬢たちを婚約者にしたいと思うのかい?」


「……それはまあ、全力で拒否したいですね」


 フィリップに逆に問い返され、ハーヴィーが嫌そうな顔をして答える。


 年頃の近い令嬢に釣り合うような相手がいなかったため、フィリップの婚約者は今に至るまで決められていない。

 そのため、フィリップが学園に通っていた頃は、身の程をわきまえない勘違い令嬢たちが彼に群がる光景がよく見られた。

 ハーヴィーも同じ学年だったので、そういった光景はよく目にしている。


「だろう?

 それに、陛下からしばらくは西部の復興に注力して構わないというお言葉をもらっているんだ。

 しばらくは社交まわりのことを後見であるラビウス侯爵に任せるつもりだから、婚約者がすぐに必要になるということにはならないよ」


「陛下のお言葉があっても、さすがに全ての社交を断れるわけではないですよ。

 パートナーが必要になる場面は必ず出てきます」


「もちろん、それはわかっているさ。

 だが、そんなことは今さらだろう?

 必要なときは今までどおり代理のパートナーを用意するさ」


 ハーヴィーがたしなめるように注意するが、フィリップはまじめに取り合うつもりはないらしい。

 どうやら、彼の中では既に決定事項のようだ。

 そのことを理解したハーヴィーが諦めたように首を振る。


「……ラビウス侯爵も大変ですね」


「まあ、かの叔母上を引き受けることが出来るほど優秀なのだから、心配は要らないよ。

 私たちは西部の復興に尽力して、侯爵が紹介してくれる優秀なご令嬢を心待ちにしていればいいのさ」


 出戻りとなった叔母のオリヴィアがラビウス侯爵にただ押し付けられただけだという事実を知っているにも関わらず、フィリップはそんな風に嘯いた。

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