第61話 隠蔽のマントとアイテムボックスの魔法(2)
「屋敷の資料にあったイメージを捨てて、前世のマンガやアニメで観たイメージで試してみたら、あっさりと使えるようになったのよね」
まあ、さすがにいきなり使えるようになったというわけではなかったけれど。
とはいえ、初めて試したときから手ごたえを感じることは出来ていたので、魔法におけるイメージというか、思い込みというのは思っていた以上に重いものなのかもしれない。
「イメージ的には別次元に空間を用意して、そこにつながるゲートを開くイメージなのよね」
実際にアイテムボックスの魔法を発動しながらつぶやく。
魔法を発動させた手元に黒い円形のゲートが開き、そのゲートに物を近づけることで収納することが出来る。
取り出す場合は、ゲートの中に手を入れて取り出したいものをイメージするだけだ。
ちなみに、ゲートの大きさは直径30cm程度だけれど、この大きさを超える物も収納可能になっている。
大元のイメージは某ネコ型ロボットのポケットになるけれど、使いやすさなどを考えてイメージに手を加えたことで今の形に落ち着いた。
また、この世界で一般的なアイテムボックスの魔法を意識して、媒体を使って発動しているように見せかけることも可能になっている。
あいかわらず媒体の内部空間を拡張するイメージでは発動しないので、媒体に重ねるようにゲートを開くことで一般的なアイテムボックスの魔法に見せかける形だ。
まあ、その一般的なアイテムボックスの魔法を資料でしか知らないので、本当にこれでごまかせているのかはわからないのだけれど。
「後は、空間転移も使えるようになっていれば完璧だったのだけれどね」
実は、アイテムボックスの魔法が使えるようになってすぐに空間転移の魔法も試していたりする。
正直、感覚的には別次元に空間を確保するというアイテムボックスの魔法よりも、同じ世界の中で空間を移動する空間転移の方が簡単なのではないかと思っていた。
けれど、実際に試してみると、空間転移に関しては発動する気配がまったくと言っていいほどなかった。
一応、某ネコ型ロボットのドアのイメージで試したから、イメージの精度としてはアイテムボックスの魔法と同じくらいのはずなのに。
「本当になんで発動しなかったんだろう?
やっぱり、無意識に空間転移は使えないものだと思い込んでいるのかなぁ」
アイテムボックスの魔法で思い知ったけれど、魔法を発動する際のイメージや思い込みというものはかなり重要だと思う。
なので、魔道具として存在していたり、少数とはいえ使える人が存在するアイテムボックスの魔法と違って、空間転移の魔法は発動の難易度が高くなっているのかもしれない。
「でも、感覚的にはそういう問題ではない気がするのよね」
ただ、魔法を試したときの感覚を思い出すと、使えないと思い込んでいるのが原因というのも違う気がする。
イメージの精度や思い込みというよりも、魔法を発動させるための根本的な何かが足りていないというような。
「……まあ、空間転移に関しては今は諦めましょう。
使えたら便利ではあるけれど、そもそも使えないのが当たり前なのだし。
というか、逆に使えてしまった方が危険な気もするしね」
長年再現されることがなかったから注目されていないけれど、もし空間転移を使える誰かが見つかったら各国がこぞってその誰かを奪い合うことになる気がする。
仮にそんな状況になってしまえば、ラビウス侯爵家から逃げるどころの話ではない。
最悪、大陸中の全ての国から逃げなくてはいけなくなるのだから。
「何にせよ、これでいざというときに逃げるための準備を万全にすることが出来るのよね。
準備できる量が一気に増えたから、また町で買い足したりしないといけないけれど、その準備さえ終えてしまえば一安心できる気がするわ」
使えるようになったアイテムボックスの魔法は、部屋1つ分くらいの容量がある。
なので、隠蔽のマントや装備、お金はもちろん、非常食や野営のための道具なども収納しておくことが出来る。
理想はラビウス侯爵家から連絡がないことだけれど、もし連絡があって望まない展開になったとしても、万全の準備があれば安心して逃げ出すことができるはずだ。
……ただ、隠蔽のマントを見つけて以降、立て続けに都合の良い展開が続いているから揺り返しが来ないかが心配ではあるのよね。
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