第57話 スノウたちの従魔登録
溢れの終結からしばらく経ったことで、終結直後は町に増えていた商人や冒険者たちもようやく数を減らし始めた。
とはいえ、西部の辺境伯領の復興のために薬草類が不足しているので、その需要によって一定数の商人や冒険者は残ることになるらしい。
なので、溢れ前と完全に同じ状態に戻ることはないそうだ。
個人的には、以前のような賑やか過ぎることのない落ち着いた町の様子が好きだったのだけれど。
なんにせよ、どうにか落ち着きが見られるようになったので、日程を調整してスノウたちの従魔登録を依頼することになった。
で、迎えた今日がその依頼した日になる。
「こんにちは、フェリシアさん」
「こんにちは、ティナさん。
わざわざ屋敷まで来ていただいてありがとうございます」
昼過ぎになってやってきたティナさんを出迎える。
けれど、ティナさんの後ろには予想外の人物がいた。
「あれっ?
ケルヴィンさんとリリーさん……?」
「よう、久しぶりだな嬢ちゃん」
「久しぶり」
「えーっと、なぜお2人がここに?」
私が気付いたことで後ろにいた2人から声をかけられる。
ひとまず、疑問を返してみたけれど、本当になぜここにいるのだろうか。
「ああ、俺たちはティナの護衛だ」
「護衛?
でも、ケルヴィンさんは溢れで深層奥の魔物を倒すほどの強さだと聞いたのですが」
ティナさんと従魔登録担当の職員さんの移動に護衛が必要だということは理解できるけれど、なぜその役目をケルヴィンさんたちが担当しているのかがわからない。
明らかに過剰戦力だと思うのだけれど。
「はぁ、このお2人は暇だからと付いてきただけです。
一応、護衛の役目も果たしてくれますが、基本的には野次馬だと思ってください」
「おいおい、野次馬とは酷いな。
護衛が必要だろうと善意で協力したというのに」
「……善意の押し付けじゃないですか。
いくら暇だからといって、下位ランクの依頼を奪うのはどうかと思いますよ」
ティナさんが疲れたように説明してくれる。
町が落ち着いたから暇になったのか……。
「無理を言って押しかけたのは悪いとは思うけど、仕方ないのよ。
私たちもこの町から離れることになりそうだから、その前にあいさつくらいしておきたかったし。
まあ、従魔にしたというオオカミに興味があったことも否定はしないけど」
「この町を離れるのですか?」
「ええ。
私たちのパーティーは西部の辺境伯領の復興に協力することになったわ。
出発するのはまだ先だけど、あなたはめったにギルドに顔を出さないみたいだし、ケルヴィンが最後に会っておきたいといったからね」
「ああ、嬢ちゃんが森の中の屋敷に住んでいるのは聞いていたが、どんな場所かはあまり知らなかったからな。
特に何かしてやることも出来なかったが、気になっていたから、ちょっと無理を言って押しかけたわけだ」
なるほど、西部の復興協力か。
確かに深層奥の魔物を倒すほどの冒険者ともなれば、そういった依頼が来てもおかしくはないのかもしれない。
「まあ、積もる話は後にしましょう。
先に従魔登録を終わらせますよ」
なんとなく出迎えに来た門の前で話し込みそうになったところで、ティナさんから注意される。
その言葉に従い、従魔登録のためにスノウたちのもとへ向かうことになった。
「へー、オオカミの魔物だとは聞いていたけど、グレーウルフだったのね。
まあ、フォレストウルフじゃデビルベアーは倒せないだろうし、当然といえば当然なのかしら」
スノウたちのもとへと案内すると、リリーさんがそんなことを口にした。
魔法や魔道具を使った形跡もないし、リリーさんくらいになると見ただけで魔物の種族がわかるらしい。
……いや、冒険者であればそれくらいは当たり前かもしれない。
「ほお、コイツはなかなか強そうだな。
毛色からして進化も近そうだし、デビルベアーくらいなら軽くいなしそうなもんだが、やられそうになったのは子連れだったからか?」
ケルヴィンさんはケルヴィンさんでスノウを見てそんなことをつぶやいているし。
一応、事前に伝えていたとはいえ、見ず知らずの人たちを見ると警戒するかと思っていたけれど、予想外にスノウたちは落ち着いたものだ。
アッシュに関しては、やって来たケルヴィンさんたちに興味津々といった感じだし。
「はいはい、観察は後にしてください。
先に従魔登録を終わらせてしまいますよ」
ティナさんが手を叩いて注意を引き、2人をたしなめる。
まあ、実力のあるらしいケルヴィンさんたちがそこまで興味を持つのかはわからないけれど、ティナさんたちを待たせるのもアレだし、先に当初の目的を果たすべきではあるか。
「そうですね。
とりあえず、先に従魔登録からお願いします」
そう言って、ティナさんと担当の職員さんに目を向けた。
オニキスのときに1度経験していたこともあり、スノウたちの従魔登録は問題なくあっさりと終了した。
心配があるとすれば、首にかけた登録証に興味津々なアッシュが登録証を壊してしまわないかだけれど、それに関しては、かなり丈夫だという職員さんの言葉を信じるしかない。
「では、私はこれで失礼しますね。
ティナともゆっくりと話したいでしょうし、後から戻ると伝えておきますので」
そんなことを考えていると、従魔登録のために来てくれた職員さんがそんなことを口にした。
まあ、目的である従魔登録は終わったので、問題ないといえば問題ないのだろうけれど、ティナさんを残していくというのはどうなんだろう?
分かれてしまうと、護衛であるケルヴィンさんたちが困るのでは?
「すいません、フレッドさん。
ケルヴィンさんたちのことは私が見張っておきますので、ギルドへの報告はお願いします」
「ああ、ギルドの仕事も落ち着いてるし、ゆっくりしていいぞ」
そんなことを考える私をよそに、職員さん――フレッドさんは屋敷を後にして町へと帰ってしまった。
「……護衛なしで大丈夫だったのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。
フレッドさんは元冒険者ですし」
あっさりとしたやり取りだったので、すんなりと見送ってしまったけれど、今更になって不安になってくる。
けれど、ティナさんからは何でもないことのように返されてしまった。
まあ、元冒険者であれば心配はいらないか。
私が往復できるくらいなのだから。
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