第54話 相談後の雑談(2)

「それで、この町周辺を襲撃してきた魔物についてですが、率いていたのはイノシシ系の魔物でした。

 深層奥の魔物という、言葉通り魔の森の深層よりも奥からやってくる魔物です」


「深層の奥から来る魔物ですか……、強そうですね」


「ええ、強いですよ。

 しかも、溢れによる魔物の襲撃なので、深層奥の魔物だけでなく周囲の魔物も強い個体が数多くいたそうです」


「……それなのに余裕があったのですか?

 こんなことを言うと失礼かもしれませんが、この町にそれだけの戦力があるようなイメージがなかったのですが」


 ティナさんの言葉から襲撃の様子を想像してみるものの、想像の中では明らかに防衛側の戦力が不足していた。

 溢れ前に来たときはそれなりに冒険者の姿を見たけれど、基本的にこの町のギルドはガラガラなイメージしかない。

 そういう時間帯にしか顔を出していないからかもしれないけれど。


「まあ、普段はそんなに冒険者の数も多くないですからね。

 ですが、溢れにあわせて他の町から冒険者たちがやってきていますし、侯爵様からも領軍が派遣されてきています。

 なので、防衛戦力としては充分な戦力が揃っていました。

 それに、今回の溢れで深層奥の魔物を討伐したのは“火竜の狩人”というこの町を拠点にしているパーティーなんですよ?」


「“火竜の狩人”?」


 どこかで聞いた気がするけれど、どこで聞いたんだろう?

 正直、冒険者の人たちとはほとんどかかわりを持っていないのだけれど。


「“火竜の狩人”はこの町のトップパーティーですね。

 リーダーのケルヴィンさんからは話をしたことがあると聞いていますよ」


「あっ、ケルヴィンさんたちのパーティーなんですね。

 というか、領軍の人たちが来ていたのに、冒険者が魔物を率いていたという深層奥の魔物を討伐したのですか?

 こういうときは領軍の人たちが中心になるイメージだったのですが」


「まあ、領軍であっても一定以上の戦力を持つ人は限られていますからね。

 この辺りは溢れの中心から離れていることもあって、個の戦力よりも数を優先したみたいです。

 なので、深層奥の魔物のような強い個体は力のある冒険者が担当し、領軍の人たちは組織力を活かして周囲の魔物たちを担当することになったようです」


 まあ、溢れによる魔物の襲撃はこの辺りだけでなく魔の森に接する場所全てで起きるわけだからね。

 戦力に限りがあるのであれば、場所によって戦力の配分を変えたりもするか。


 ただ、この辺りに深層奥の魔物を討伐できるような冒険者がいなかったらどうするつもりだったのだろうか?

 いやまあ、流石に自分の領内であれば冒険者たちの戦力も把握しているか。

 それこそ深層奥の魔物すら討伐できる戦力なのだから。


「まあ、そういう経緯で深層奥の魔物のような強い魔物は力のある冒険者たちが、その取り巻きの魔物たちは領軍や他の冒険者たちが討伐しました。

 改めて思い出してみると、派遣されてきた領軍の戦力と冒険者の戦力が上手くかみ合って、本当に安定した防衛だったような気がします」


 そう言い終えて、ティナさんはお茶の入ったカップに手を伸ばした。

 それに合わせてこちらもお茶請けのクッキーに手を伸ばす。


 話を聞く限り、この町周辺は本当に問題なく溢れに対処できたみたいだ。

 襲撃してきた魔物も強かったらしいけれど、それに対して充分な防衛戦力が用意されていたようだし。

 そういう意味では、父であるラビウス侯爵は優秀な領主なんだろうね。

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