第51話 町の様子

 翌日、溢れ前と同じようにオニキスと一緒に町へと向かう。

 魔物の溢れが終結したとはいえ町の様子がわからないので、騒動の原因になりかねないオオカミたちには屋敷で待っていてもらうことにした。



「見た感じは溢れ前と変わっていない気がするね」


 町が近づいたところでつぶやく。

 ここまでやって来るまでの道にも特に戦闘があったような痕跡はなかったし、目の前に見える町の外壁にも特に何事かあったような様子はない。

 見慣れた門番が立っていることもあり、まるで魔物の溢れなどなかったかのような光景に見える。



「嬢ちゃんか、久しぶりだな」


 さらに町へと近づき、門での審査のためにオニキスの足を緩めたところで声をかけられた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう。

 森の屋敷に避難していたらしいが、何事もなかったようで何よりだ」


 やはり森の屋敷で引きこもるというのは非常識な行動だったのかもしれない。

 門番の人の表情的に、思っていた以上に心配をかける状況だったみたいだ。


「はい、おかげさまで何事もなく平和な日々でした」


 心配をかけたとはいえ、魔物の姿すら見ない本当に平和な日々だったので当たり障りのない言葉を返しておく。

 まあ、オオカミの魔物は毎日見ていたけれど。

 ……冗談はさておき、せっかくなので門番の人からも溢れの様子を聞いてみることにする。


「町のほうも余裕を持って防衛できたと聞きましたが、実際はどうだったのですか?」


「ああ、溢れの防衛は確かに余裕があったみたいだな。

 前線に立っていたのは冒険者と軍の連中だったから、俺が実際に確かめたわけじゃないが。

 ただまあ、溢れの防衛を死者なしで乗り切ったんだから、かなり恵まれてたと思うぞ。

 西部はかなりの被害だったと聞くし」


「西部はそんなに被害が大きかったのですか?」


「ああ、何せ辺境伯家の一族が全滅したらしいからな。

 まあ、あっちは溢れの中心に近いのに人も物も足りてなかったらしいし、かなり厳しかったんだろう。

 その点、ここはポーション類が潤沢に用意されていたから余裕があったんだよ。

 ま、それもこれも大量に薬草を卸してくれた嬢ちゃんのおかげだな」


 ハハハと笑う門番の言葉に、あいまいな笑顔を返しておく。

 褒めてもらえるのはうれしいけれど、なんとなく気恥ずかしい。

 このあたりの感覚はかなり前世に影響されているのかもしれない。


 その後、何事もなく審査を終え、町の中へと入ることになった。






「思ったよりも商人が多いね」


 オニキスの背に揺られながら町の中をゆっくりと進み、ギルドのある町の中心部に近づいたところで急に馬車の数が増えた。

 溢れの終結から間もないので冒険者たちが多いのは予想通りではあるけれど、思ったよりも商人たちの数が多い。

 というか、動きが早い。

 どこから来た商人なのかはわからないけれど、領都からだとすると馬車で3日はかかるはずなのに。


 ちなみに、連絡が来たのが昨日だったというだけで、溢れの終結自体は一昨日だったらしい。

 なので、通信の魔道具を使って終結直後から動き始めていれば、無理をすればどうにか移動できなくはないかもしれない。

 けれど、流石にここにいる商人たちの全員が全員そんな無茶な行程でやってきたとは思えない。

 であれば、溢れの終結前から動き始めていたということなのだろう。


「もしかしたら、溢れの最中から来ていたのかな」


 なんとなく冒険者以外はみんな避難するものだと思っていたけれど、よくよく考えてみると商人であれば危険を顧みることなくこの町みたいな前線まで仕入にやってくるものなのかもしれない。

 であれば、溢れの状況も把握していただろうし、溢れの終結にあわせて馬車が集まるのも不思議ではない気がする。


「逞しいなぁ」


 そんなことをつぶやき、慌しく動き回っている商人たちを尻目にギルドへと向かった。




―――


前話のサブタイトルが紛らわしかったようで申し訳ないです。

打ち切ったりするつもりがなかったので、コメントで指摘されるまで気づきませんでした。

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