第50話 終結の知らせ

 屋敷に引きこもり始めて2週間。

 ようやくギルドから魔物の溢れが終結したとの連絡を受けた。


「ようやく溢れが終結したみたいね。

 しばらくすれば魔の森も落ち着くと思うけれど、あなたたちはどうするの?」


 溢れの終結を知らせてくれた冒険者たちを見送った後、薬草畑の近くにいたオオカミに問いかけてみる。

 けれど、オオカミは首を振るだけで明確な答えを返してくれない。

 というか、私に気付いて駆けてきた仔オオカミたちを見て呆れているようだ。


「……なんというか馴染んじゃったよね、あの子たち。

 野生に戻れるの?」


 そんなことを口にしながら、飛び掛ってきた仔オオカミたちを受け止める。

 屋敷に連れてきてすぐの頃は、こんな風に飛び掛られてもうまく受け止めることが出来なかった。

 けれど、今となっては、事前に身体強化魔法を準備してしっかりと受け止めることが出来るようになっている。


 まあ、思っていたよりも幼かったらしい仔オオカミたちはこの2週間の間でもすくすくと大きく育っている。

 なので、そろそろ体格的に受け止めるのが厳しくなりそうだ。

 少なくとも2頭同時に受け止めるのは無理な気がする。


「ほら、落ち着きなさい」


 地面に降ろした後もなお周囲で跳ね回る仔オオカミたちに注意する。

 けれど、私の言葉を理解しているのかいないのか。

 仔オオカミたちが落ち着く気配はない。


「はぁ。

 ごはんを持って来てあげるから、ちょっと待ってなさい」


 そう言って屋敷に向かうものの、仔オオカミたちは私にまとわり付くように付いてくる。

 オオカミのほうを見ると、諦めたように頭を振っていた。






「ひとまず、ギルドに顔を出すのは明日でいいかな?」


 オオカミたちやオニキスにご飯を与えた後、屋敷に戻って自身の昼食をとる。

 その最中に考えるのは、いつギルドに顔を出すかということ。


 ティナさんは心配しているかもしれないけれど、少なくとも今日連絡に来てくれた冒険者たちによって私が無事だということは伝わるはずだ。

 であれば、既にお昼を過ぎた今日のうちに無理して町まで行く必要もないと思う。

 終結直後の今だと、もしかしたら町で泊まる場所がないなんて事態もありえるかもしれないし。


「というか、ギルドに顔を出す以外に何かやることってあったっけ?」


 明日の予定を考えようとして、ふと気付く。

 意外に町に行ってもやることがないのではないかと。


 ギルドに行ってティナさんに顔を見せるつもりではあるけれど、他の予定がイマイチ思いつかない。

 いつもなら買出しの予定があったりするけれど、今回は引きこもる前に買い込んでいたから必要ないし。


「魔物の溢れの詳しい情報もギルドで聞くつもりだしね」


 というか、ティナさんに会って話が出来ればそのときの話題に出ると思っている。

 まあ、ティナさんが忙しかった場合は、他の人から情報を集めることになるかもしれないのだけれど。


 ただ、溢れの終結を伝えてくれた冒険者たちによると、町や屋敷周辺では特に大きな被害もなく防衛に成功したらしいのよね。

 なので、集める必要があるような情報があるかは疑問だったりする。

 被害がなかったのであれば、私に影響が出るような何かがあるということもなさそうだし。

 一応、王国の西部ではかなりの被害が出たらしいけれど、そっちは国の反対側だからね。

 気にはなるけれど、だからといって私に影響があるかというと、こちらもやはり疑問に思う。


「後はオオカミたちのことをどうするかだけれど、これも結局はティナさんに相談する案件なのよね」


 オオカミとの従魔契約を続けるかどうかは、早めに結論を出さなければいけない問題だとは思う。

 というか、そもそも契約を続けるかどうかと考えている時点でダメな気はするけれど。

 治療のための一時的な契約のつもりだったのだから。


「2週間は長すぎたのかなぁ」


 腕を投げ出すように机に倒れこんでつぶやく。

 最初の頃はちゃんと森に帰すつもりがあったはずなのに、気付いたら完全に情が移ってしまっていた。

 『野生に戻れるの?』なんて聞いてみたけれど、私の方がオオカミたちと離れがたく思っている気がする。


「まあ、ティナさんに相談してみるしかないかな」


 さすがにティナさんから強く反対されたら、契約を解除することを決断できるでしょう。

 逆に言うと、反対されなければ契約を続けるということになりそうなのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る