第49話 ギルドでの相談

「こんな魔物相手に飛び出すなんて、何を考えているんですかっ!

 下手したらフェリシアさんも無事では済まなかったのですよ!」


 翌日、ティナさんに相談するべくギルドへと向かい、簡単に事情を説明してクマの魔物を見せるとそんな叱責を受けた。

 いやまあ、ティナさんの気持ちも分からなくはない。

 私だって改めて見たクマの魔物の大きさにコイツバカなんじゃないのと思っているのだから。

 ホント、勢いというか状況に流されるのって怖いね。


「ハハハ、……ゴメンナサイ」


「……はぁ、もういいです。

 こうしてフェリシアさんが無事だったのですから。

 ただ、今後はこのような無茶をしないようにしてください!」


 微妙な謝罪の言葉とともに頭を下げる私に、ティナさんはあきらめたらしい。

 最後にもう一度だけ釘をさして、話を進めてくれる。


「それで、この魔物は買い取りで構いませんか?

 今だとあまり高い値がつけられませんが」


「魔物の値段が下がっているんですか?

 いや、溢れで魔物の数が多くなっているのはなんとなく理解できますが、それだと冒険者の人たちのやる気が下がるのではないですか?」


 ティナさんの言葉に疑問を返す。

 冒険者のほとんどはお金のために魔物を倒しているはずだ。

 溢れが目前ということで多少は町だとか自分たちの住む場所を守るためにという思いはあるだろうけれど、なんとなく自分たちの命やお金を優先するイメージがある。

 それなのに魔物の買い取り金額を下げるというのは、魔物の間引きに影響が出ないのだろうか。


「ああ、それに関しては間引きで狩ってきた魔物の数に応じて報酬を加算する形になっています。

 一時的に買い取り金額を魔物の強さや戦いやすさに応じたものにすることで、少しでも魔物の数を減らすことができるようにという試みですね。

 ですので、フェリシアさんが持ってきてくれたこのクマの魔物も、平常時であれば毛皮や肝などの素材で買い取り金額が高くなるのですが、今だとその強さに応じた相応の金額になってしまいます」


 なるほど、目的が魔物の間引きなのだから、売れる売れないの基準で選り好みされても困るということか。

 私にとってはマイナスになるみたいだけれど、これは仕方ないかな。


「わかりました。

 このサイズの魔物を保管しておく場所もないですし、買い取りでお願いします」



 買い取り作業を終えたところで個室へと移動し、本題の相談に入る。

 オオカミをどうするかという話と私の避難をどうするかという話だ。


「私としては、その契約したというオオカミは屋敷に置いて町に避難してほしいですね」


「でも、クマとの戦闘で瀕死になって、まだ回復しきっていないのですよ?」


「フェリシアさんの心配もわかりますが、魔物は丈夫です。

 それもあのクマを倒すような魔物であれば、ちょっとやそっとのことではどうにかなったりしません。

 既にある程度は回復しているのでしょう?」


「それはそうですけど……」


 ティナさんの言葉に言葉が詰まる。

 まだ本調子ではない様子ではあったけれど、確かに今のオオカミが放置されただけでどうこうなるとは思えない。

 まあ、食べるものくらいは用意してあげた方が良いのかもしれないけれど、それについても屋敷の周辺で狩りをするくらいであれば今の状態でも出来そうな気はする。


「まあ、どうしても心配というのであれば屋敷に籠っているという手段もないではないですけれど」


「本当ですか!?」


 仕方なくという感じで口にしたティナさんの言葉に勢いよく反応する。

 正直、何がなんでも町に避難しろと言われるかと思っていたので意外だ。


「ええ。

 これは私のミスなのですが、先ほどのクマの魔物を周囲の冒険者たちに見られたのが良くありませんでした。

 普段であればそこまで気にする必要はないのですが、溢れの対応のために今は色んな冒険者が集まっていますからね。

 あのレベルの魔物を狩ることができる魔物と契約したというフェリシアさんが狙われるという可能性を否定できません」


「あのクマってそんなに強い魔物だったのですか?」


「かなり強い魔物ですね。

 正直、溢れが近いからといって浅瀬に出るような魔物ではないはずなのですが……。

 そういう意味では、近くにそんな魔物が出たという屋敷も安全かどうかは保障できないのですけど、これに関しては結界があるという屋敷と良からぬことを考えるかもしれない冒険者の悪意のどちらを危険と判断するかという話になりそうです」


 あぁ、人の悪意か。

 それは怖いね。

 幸い、私自身はそういう悪意にさらされたことはないけれど、お母様の話では色々と聞いたことがある。

 それに、前世を思い出せば、命の危険こそなかったけれど大小さまざまな悪意は受けた経験はある。


 ……悪意を受けたことがないと思ったけれど、よくよく考えてみるとラビウス侯爵家から放り出された今の状況は現在進行形で悪意を受けているのではないだろうか。

 そう考えると、あまり目立つような行動は避けるべきな気がする。


「えーっと、屋敷で籠る方を選びたいのですが、その場合、溢れの終結とかはどうやって判断すればいいですか?」


 町での避難を回避する方向に意思を傾けつつ、懸念事項の確認をする。

 以前も屋敷で孤立する心配から町への避難を決めたはずだし、そこの問題はクリアしておきたい。


「そうですね、フェリシアさんが屋敷に籠って溢れをやり過ごすというのであれば、終結後に連絡を入れてお知らせします。

 ただ、終結直後は色々と忙しくなることが予想されますので、個別に依頼を出してもらった方が早く終結を知ることができるとは思いますが」


「なるほど、依頼を出しておけばいいのですね。

 では、溢れ終結後に終結を知らせてくれるように依頼を出しておいてもらえますか?」


「わかりました。

 私が不安を煽っておいてなんですが、町で避難した場合も何事もない可能性の方が高いですよ?

 ギルドの人間や冒険者は溢れの対応に駆り出されますが、町の人たちの目はあるわけですから」


 不安そうなティナさんが念押しのように確認してくる。

 その気持ちも分からないではないけれど、ラビウス侯爵家のことが思い浮かんだ以上、町に避難するというのは採用しにくい。

 あの屋敷で生活を始めた当初の方針にも反してしまうし。


「いえ、オニキスもいますし、あの屋敷で頑張ってみます」


 なので、屋敷で引きこもる方針を押し通すことにした。

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