第46話 戦いを終えて
「ふぅ」
地面に倒れたクマから完全に動きが無くなったのを見て息をつく。
さすがに無茶をし過ぎた。
そんなことを考えていると、仔オオカミにまとわりつかれていたオオカミが倒れる姿が目に入った。
「ちょっ、大丈夫!?」
驚きの声を上げて、すぐにオオカミへと駆け寄る。
荒い息のオオカミを確認して、思っていたよりもギリギリだということに気づく。
クマにトドメを刺すことができたのだから余裕があるものだと思っていたけれど、実際には最後の力を振り絞っただけだったらしい。
「どうしよう……」
仔オオカミたちは、オオカミに寄り添うようにしてその身体を舐めたりしているけれど、さすがにそれで回復するとは思えない。
ざっとオオカミの全身を確認してみる。
身体のいたるところに血がついているけれど、大きな傷は見当たらない。
クマの攻撃が打撃主体だったからか、目に見えるダメージよりも内部の見えないダメージの方が大きいのかもしれない。
「持ってるポーションで治るかな?」
常備しているヒールポーションを取り出してつぶやく。
一応、いざというときのための中級ポーションがあるけれど、この状態のオオカミに対して有効かはわからない。
買ったときに聞いた話では重傷程度は治せるという話だったはずだけれど。
「……試してみるしかないか」
ポーションを手にしたまま、頭の方へと移動する。
こちらの動きを追うように視線を動かしたオオカミと目が合ったときにポーションを見せてみたけれど、特に拒否するような意思は感じられなかった。
なので、ポーションの効果を信じてオオカミに使うことにする。
オオカミの口を開け、その奥へと腕を突っ込んでポーションを流し込む。
患部に直接使用したほうが効果的らしいけれど、一番ダメージがありそうな箇所がわからなかったので仕方ない。
ポーションを飲んでもらって、内部から回復してもらうことにする。
「後は無事に効果が出るのを信じるしかないね」
オオカミが無事にポーションを飲み込んだのを確認してつぶやく。
患部に直接使用した場合と違い、経口摂取した場合は効果が出るまで時間がかかるらしい。
なので、しばらくは様子見ということになりそうだ。
「とりあえず、待っている間にこっちの片づけをしましょうか」
オオカミの側を離れ、クマのもとへと向かう。
幸い、箱罠を回収するために容量が大きなマジックバッグを持ってきていたので、オオカミよりも大きなクマを収納して持ち帰ることができる。
まあ、回収できても、その後のギルドへの説明を考えると頭が痛いのだけれど。
間違いなくティナさんには怒られるだろうなぁ。
ひとまず、未来で待っているかもしれないお説教のことは忘れ、目の前の現実への対処に移る。
「一応、改めて血抜きをしておきましょうか」
クマは首を引き裂くような形でトドメを刺されているので、首元から既に大量の血が流れ出ている。
これだけでも十分な気はするけれど、念のために木に吊るしておくことにしよう。
「次はこの惨状なんだけれど、どうすればいいのかしら」
苦労しながらもロープを使ってクマを木に吊るし終え、周囲の惨状へと目を向ける。
オオカミとクマが暴れた影響で、結構な広さが木のない開けた広場のようになってしまっている。
まあ、木やら岩やらが散乱していたり、地面が凸凹だったりしているので使い勝手は悪そうだけれど。
「……これは無理ね」
近くに倒れていた木を確認してみるけれど、私が片付けるにはサイズが少し大きすぎる。
まあ、斧や魔法を使っていくつかのパーツに分ければ2、3本くらいは処理できるかもしれないけれど、さすがに倒れている木の数が多すぎる。
そんな数を持ち帰るわけにもいかないし、諦めて自然に還ることを祈ろう。
「まあでも、1本くらいは持って帰ろうかな」
せっかく既に倒れている立派な木があるのだから、屋敷で使う分として1本くらいは確保しても良い気はする。
という訳で、魔法を使って木材を確保することにした。
「どう考えても、周囲の確認が先だったよね……」
木の処理を終えたところで、周囲の確認をしていなかったことに気づいて確認に向かうことになった。
で、周囲に魔物や危険な生き物がいないことを確認して戻ってきたのが今になる。
「どう?少しは回復した?」
そんな風に声をかけながら近づくと、オオカミが顔を上げてこちらを見る。
先ほどよりも動きがスムーズになっている気がするし、ポーションが全くの無駄になったわけではなさそうだ。
実際、近づいてみると、先ほどよりも呼吸が落ち着いたものになっていた。
命が尽きる前の最後の輝きとかでない限り、ひとまず命の危険は去ったのではないだろうか。
「ただ、すぐに動けそうな状態には見えないね」
そう口にすると、オオカミが立ち上がろうとするけれど、明らかに足に力が入ってない。
一瞬だけ身体が持ち上がりそうになったけれど、すぐに地面へと倒れ込んでしまった。
「うーん、どうしよっか。
……というか、なんとなくオオカミたちを連れ帰る気になっていたけれど、もしかして私が気にする問題ではなかったりする?」
そうつぶやき、オオカミたちに目を向ける。
「いや、でもこの状態で放置するわけにもいかないか」
一瞬、野性で生きていたのだから放置でもという考えが浮かんだけれど、さすがのオオカミもこの状態では身を守ることが厳しい気がする。
であれば、助けるために介入した以上、まともに動けるようになるまでは面倒を見るべきだろう。
「さすがに、背負って連れ帰るのは厳しいよねぇ。
そうなるとゆっくりとでもいいから歩けるようにはなってほしいのだけれど」
でも、ポーションを飲んだ結果が今の状態なわけで。
ポーションの過剰摂取は良くないらしいし、これ以上に回復させるには魔法でどうにかするしかないのかなぁ。
「でも、他の人にかける治癒魔法はまだ練習中なのよね」
自分自身に使う治癒魔法であれば一応使えるようにはなっている。
というか、身体強化の魔法のイメージを治癒のイメージに変えたらできた。
まあ、だったらという感じでオニキスに試したら、魔法が発動せずに弾かれてしまったのだけれど。
治癒魔法に限らないけれど、他者に作用させる魔法というのは発動の難易度が跳ね上がるらしいのよね。
「一応、この辺りも魔力量でゴリ押しできないわけではないらしいけど……」
ただ、明らかにオオカミの方が格上に見えるので、魔力でゴリ押しというのも厳しそうではある。
「……弱っている今ならどうにかなる?」
地面に横たわるオオカミを見て、ふと思いつく。
弱っている今ならどうにかなるのではないかと。
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