第39話 従魔登録

 門で時間を取られたこともあり、寄り道することなく気持ち急ぎ気味でギルドへと向かう。

 その道中でまわりの視線が気になったのは、オニキスが魔物化したという事実を知らされたからだろうか?

 自意識過剰な気もするけれど、ついつい気にしてしまう。

 自分の感覚では、特に何も変わっていないはずなのだけれど。



「あらフェリシアさん、お久しぶりですね」


 ギルド内へ入って受付に近づくと、ちょうど冒険者の対応を終えたティナさんが私に気づいて声をかけてくれた。

 並んでいる人もいなかったので、そのままティナさんが待つ受付へと向かう。

 まあ、もともとティナさんの担当する受付を利用するつもりだったのだけれど。


「すいません、今日は薬草の買い取り以外にも従魔登録をお願いしたいのですが」


「従魔登録ですか?

 もしかして、森で魔物を捕まえたりしましたか?」


「いえ、オニキスが、じゃなくて以前この町で買い取った馬が魔物化していたみたいで、門番の人に注意されたんです。

 なので、その魔物化した馬の従魔登録になります」


「魔物化ですか……。

 そういえば、以前住んでいる屋敷で魔素異常が発生しているという話を聞きましたね。

 もしかして、その影響ですか?」


「ええ、そうです。

 どうやら、魔素異常の影響で気づかないうちに魔物化していたみたいで……」


 ひとまず、オニキスの魔物化とそれが発覚した経緯について簡単に説明する。

 ティナさんが魔素異常のことを覚えていてくれたおかげで、割とスムーズに話ができた気がする。

 門で説明したときには、何というか半信半疑というような感じだったので、それがなかっただけでもかなり話しやすかった。

 まあ、門番の人たちは普通の馬だったころのオニキスも見ているし、魔物化なんていう異常事態に関する話を簡単に信じる訳にもいかないのだろうけれど。


 ティナさんへの説明を終えると、実際に従魔登録を行うためにギルドの裏手へと移動することになった。



 ティナさんと一緒にオニキスを連れて移動すると、ほどなくしてギルド職員の従魔師だという人が合流して従魔登録の手続きが始まった。


 手続きがオニキスの鑑定からスタートしたので、魔物化を信じてもらえていなかったのかとついついティナさんの方を見てしまったのだけれど、それに気づいたティナさんからは「規則だから」と告げられた。

 なんでも、今回が魔物化したケースだから特別という訳ではなく、従魔登録を行う場合は対象の種族を正確に記録するために必ず鑑定を行うらしい。


 そんなやり取りがありながらも、無事にオニキスの魔物化が確認されたので、次の従魔登録に関する説明と諸注意へと進む。


 説明される内容自体は基本的に当たり前のことだった。

 従魔登録した魔物が問題を起こした場合は契約者がその一切の責任を負うだとか、町中では従魔登録証を常に見える位置に付けておく必要があるだとか。

 気になった点としては、従魔登録に関して更新料が必要だというところだろうか。

 まあ、説明によるとギルドのデータベース上に従魔とその契約者の情報を登録して、各ギルドから照会できるようにしているそうなので、さすがに登録料のみでずっと管理するのは厳しいのだと思う。

 それに、どこかで区切りを付けないと登録情報が溜まる一方になるだろうしね。



「それでは、これを使って従魔契約をお願いします。

 これはそのまま従魔登録証になるので、契約が終わったらわかりやすい位置に付けておいてください」


 従魔登録に関する話が終わると、いよいよ従魔契約ということになり、ティナさんから球形の魔石が付いたペンダント型の魔道具を渡される。

 先ほどの説明にもあったことだけれど、ギルドに情報を残すためにも、登録時には既に契約済みであっても再度従魔契約をする必要があるらしい。

 私たちの場合は契約していない状態だから、どちらにせよ契約は必須になるのだけれど。


「わかりました。

 これに魔力を流せば、従魔契約ができるんですよね?」


「そうです。

 魔力を流すことで、その魔道具に刻まれた従魔契約の魔法陣が起動して契約できるようになります。

 後、契約が完了すると、私が持っているこのカードにフェリシアさんたちの魔力を登録するために、魔力が少し吸われるので注意してください」


 念のためにティナさんに確認し、問題なさそうなので実際に従魔契約を行うことにする。

 若干、魔力が吸われるというところが気になるけれど、さすがに変なことにはならないと信じましょう。


「じゃあ、オニキスよろしくね」


 そう言って右手に持つ魔道具をオニキスへと突き出し、魔力を流す。

 すると、すぐに魔道具から白い光が放たれ、目の前に白い光でできた魔法陣が浮かび上がった。


 10cmほど浮かび上がったところで停止し、魔法陣が上下に分離する。

 そして、分離して2つになった魔法陣が、私とオニキスのそれぞれに向かってゆっくりと移動し、そのまま吸い込まれるように消えた。


「おぉ」


 自身の体内に消えた魔法陣に対して声が漏れる。

 けれど、すぐに魔力を吸われる感覚を覚え、一瞬身を固くする。

 反射的に抵抗しそうになったけれど、事前に魔力を吸われると聞いていたので我慢して耐える。

 その直後、私とオニキスから吸い取られた魔力がティナさんの持つカード型の魔道具へと吸い込まれるのが見えた。



「はい、これで従魔登録は完了です。

 一応、書類も作る必要があるので、フェリシアさんにはもう少しだけ付きあってもらわないといけませんが」


 ギルドで保管するカード型の魔道具を確認したティナさんがそう告げる。

 実際、意識するとオニキスとの魔力的なつながりを感じることが出来るので、無事にオニキスとの従魔契約は成功しているらしい。


「ありがとうございます。

 いきなり魔物化していると言われて不安でしたけれど、ようやく安心できました」


「ふふふ。

 そうですね、これでフェリシアさんがその子を町中で連れていても注意されることはなくなるはずですよ」


 その言葉を聞き、隣にいるオニキスを見上げる。

 首にかけた魔道具兼従魔登録証も特に嫌がることなく付けてくれているし、ひとまず魔物化という突然の事態はどうにかなったみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る