第38話 オニキスの変化
「ちょっ、ちょっと待って!」
買い出しのために町まで来て、いつも通りに門を通過しようとしたら突然そんな風に声をかけられた。
何があったのかと声の方を向くと、そこには知らない顔がある。
……そういえば、最近は慣れて顔パスみたいになっていたけれど、町の門を通過するときには審査があるものだった。
門番の人がいつもとは違うので、審査のために呼び止められたのかもしれない。
「あっ、すいません。
審査のことを忘れていました」
「良かったー、止まってくれて。
こっちを無視して町に入ろうとするから、てっきり単騎で町に攻めてきた賊なのかと思ったよ」
「えっ?」
町に攻めてきた賊?
いやいやいや、こんな可憐な少女を捕まえて賊はないでしょ、賊は。
まあ、確かに門番をスルーして町に入ろうとしたのは申し訳ないと思うけれども。
「じゃあ、身分証とその馬の従魔登録証を見せてね。
後、町の中だと従魔登録証は見える位置につけてもらわないと違反になるからね」
「えっ?」
門番の人の言葉に心の中で文句を言っていると、こちらの様子を気にすることなく手続きを進められた。
というか、従魔登録証って何?
いつから馬に従魔登録が必要になったの?
「うん?
もしかして、身分証を持ってないとか?」
「あっ、いえ、自分の身分証はあるのですが、この子の従魔登録証がなかったので。
馬にも従魔登録が必要になったのですか?」
「えっ?」
さっきからお互いに驚いたり慌てたりで微妙に何かがズレている気がする。
そんなことを思い始めたところに、救いをもたらすであろう声が聞こえてきた。
「どうした?
何かあったのか?」
そんな言葉とともにやってきたのは、何度かこの門で見たことがある門番の人だった。
「あー、嬢ちゃん、この馬なんだが、前から乗ってたのと同じ馬だよな?」
少し離れた位置で2人で話していたかと思うと、顔見知りの方の門番の人が声をかけてきた。
いきなり何を言っているのかと思いつつ答える。
「はい、いつもと同じです」
「そうか。
言いにくいんだが、この馬、魔物化しているぞ」
「は?」
マモノカ?……魔物化?
えっ、なんで?
「いや、俺たちも何だかんだで慣れてたから気づかなかったんだが、今日初めて見たこいつがどう見ても魔物だろうと言っててな。
で、実際に鑑定してみたら魔物の“バトルホース”と出たんだよ」
「えっ、冗談とかではなく、本当に?」
「ああ、俺も驚いたよ。
ほれ、嬢ちゃんも確認してみるといい」
そう言って渡された鑑定の魔道具を使ってオニキスを見る。
すると、言葉通りに種族が“バトルホース”となっていた。
念のためにそのまま自分の身体も確認してみたけれど、正しく種族が“ヒト”となっていた。
「えっと、オニキスが魔物化したというのは確認できたんですが、どうすればいいんでしょうか?」
借りていた鑑定の魔道具を返してから問いかける。
現状、唯一の同居人を魔物化したからといって国に取り上げられるなどという事態は避けたい。
「とりあえず、嬢ちゃんがやる必要があるのはコイツの従魔登録だな。
後、念のために魔物化した経緯については確認させてもらうことになるかな?
ないとは思うが、違法性がある場合は取り締まる必要があるから」
「違法行為なんてしてませんよっ!
それよりも、国に取り上げられたりとかはしないのですか?」
「ははは、しないしない。
戦時中だとその可能性もあったかもしれんが、今の情勢だとそういうことにはならんよ。
まあ、売りたいと言えば喜んで買い取ってくれるとは思うが」
「売りません!」
からかうような言葉に拒絶の言葉を返す。
ひとまず、無理やりオニキスを奪われるということはなさそうで良かった。
その後、詰所でオニキスが魔素異常の影響で魔物化したのだろうという推測を伝え、無事に町に入ることができた。
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