第36話 魔法の訓練
魔法の選定を終えて訓練を開始したものの、数時間も経たないうちに問題が発覚した。
開始当初こそ、自由に魔法を撃ち放題という環境を楽しんでいたのだけれど、ふと気づいてしまったのだ。
“あれ?これって魔法の訓練になってないのでは?”と。
まあ、魔法を使っていればイメージの強化にはなるので訓練になっていないは言い過ぎなのだけれど、少なくとも事前に想定していた魔力操作の訓練にはなっていなかった。
魔法の選定をしていたときは特に意識していなかったけれど、アロー系の魔法だと魔力操作なしで使えていたんだよね。
そうなると、訓練を始めてから撃ち続けていた魔法も当然魔力操作など必要としないわけで。
だから、魔力操作の訓練になるものが必要になったのよね。
「うわぁ、一面氷漬けだぁ……」
“より高度な魔法を使えば、必然的に魔力操作も必要になるのでは?”と思いついて、ボール系の魔法を試した結果がこれです。
いやー、思い付きで行動するのは良くないね。
「いや、まじめにどうしよう、コレ。
火の魔法で試さなかったのがせめてもの救いだけれど、氷漬けは氷漬けで困るよ」
魔法の選定のときと同じように、薬草畑の空きエリアで試していたので実質的な被害はない。
けれど、正直あまり気分の良い光景ではない。
かといって、氷を溶かそうとファイアーボールを撃ちこんでも更なる惨事が起きそうなだけというのがね……。
しかも、こんな被害を起こしておきながら試してみたアイスボールの魔法でも魔力操作を必要としなかったという事実が悲しい。
結果として訓練に使っていた場所を無駄に氷漬けにしただけで、何の成果も得られなかったのだから。
「やっぱり、人間たるもの先人の知恵に頼らないとね」
という訳で、屋敷に戻って資料を漁ることにしました。
幸いなことに前住人が魔法の研究をしていただけあって、魔法関連の本や資料は大量に残されている。
これだけあれば、魔法の訓練に関するものもあるでしょう。
「結局、使えそうなのはこの3冊だけか……。
というか、この〝基礎から始める魔力操作入門”が最初に見つかっていれば、お昼には探すのを終わらせても良かったのに」
昼食を挟みつつ、半日かけて探し続けて見つかったのは次の3冊だった。
〝魔力の効率的な運用”
〝魔力が増える仕組みとその効率化”
〝基礎から始める魔力操作入門”
上から順に見つけたのだけれど、1冊目の〝魔力の効率的な運用”がお昼前に見つかっていたので、それが最後に見つけた〝基礎から始める魔力操作入門”であればと思わずにはいられない。
まあ、嘆いたところで時間は戻らないので、実験室の蔵書の確認ができたと納得しておくしかない。
「見つけた本も特に目新しい内容じゃなかったというのが悲しいのよね。
一応、〝基礎から始める魔力操作入門”を参考に訓練するつもりではあるけれど、流し読みした限りでは今まで身体強化魔法を使っていたのとあまり変わらないような訓練になりそうだし」
とりあえす、今日のところは見つけた本の確認をして、実際の訓練は明日からかな。
細部まで読み込めばもう少し有用なことも書いてあるかもしれないし、それに期待することにしましょう。
昨日の夜に読み込んだ本の内容を基に、さっそく訓練を初めてみる。
基本となるのは、〝基礎から始める魔力操作入門”に書かれていた内容だ。
他の2つに関しては、研究論文のようなものだったので訓練としてそのまま採用することは難しい。
内容自体はそれなりに興味深いものだったのだけれど。
「くぅ、また失敗したっ!?」
最初に選択した訓練は、魔力操作の基本となる魔力移動の訓練になる。
私としては、身体強化魔法を使うときに体内で魔力を循環させていたから簡単な訓練だと思っていたのだけれど、実際に試してみると予想以上に難しかった。
いや、魔力を動かすこと自体はできているのだけれど、必要な量を必要な場所に動かすという魔力移動が上手くいかない。
身にまとっている魔力全体を動かすのであれば簡単なのだけれど、一定量だけというのが思いのほか難しい。
気づいたら動かしている魔力が大きくなっていたりするので。
「うわっ、でかすぎっ!?」
続いて試しているのは、これまた魔力操作の基本となる魔力を練り上げる訓練。
私の場合、普段から身にまとっている魔力だけで大抵の魔法は使えてしまうのだけれど、それでは訓練にならないので意識的に練り上げた魔力だけを使って魔法を使う訓練になる。
特定の魔力だけを使うことになるので、先にやっていた訓練の応用にもなるね。
何度か試してみた結果わかったことは、今までがどれだけ雑に魔力を練り上げていたかということ。
一定の量を意識しているにもかかわらず、練り上げた魔力量が毎回バラバラになってしまった。
結果、アイスアローとして魔法を発動させても、サイズや威力が揃わない散々な結果になっている。
何も考えずに撃っていたときは、サイズや威力がきれいにそろっていたのに……。
「あっ、また崩れたっ!?」
そして、最後に試しているのが発動させた魔法を保持したままにする訓練。
初日の今日は、空中に水球を浮かせてその数を増やしていくという訓練をしている。
残念ながら、現状では3つ作るまでしか保持したままにできていない。
同時に水球を作り出すだけであれば、10個以上でも余裕なのだけれど。
この訓練は先に行った2つの訓練の応用にあたり、複数の魔法を同時に展開するための訓練になる。
将来的には、保持したままの水球の大きさを変化させたりということもやることになるのだけれど、この調子だと随分と先のことになりそうだ。
「なんというか、魔法が下手になった気がするよ」
その日の夜、ベッドの中で訓練を振り返って愚痴る。
本当に下手になったわけではないと思うけれど、少なくとも訓練している魔力操作に慣れるまでは一時的に発動が遅くなるという弊害はあるかもしれない。
ただ、今日の訓練の最後に魔力量を意識してアイスボールを放ったときには、一面が氷漬けになるということはなかった。
なので、将来を考えるとこの魔力操作の訓練は必要なことなのだろうとは思う。
正直、鍛えているというよりは手加減の方法を覚えようとしているような感覚になるのが悲しいところではあるけれど。
「魔力操作の訓練は続けるとしても、別に魔法の開発でもやってみようかなぁ」
今日の訓練でずっと我慢を強いられていた影響か、ふとそんなことを思いつく。
戦闘系の魔法を思い切り撃ちまくるというのがストレスの発散には良さそうだけれど、さすがに威力の調節ができるようになるまでは難しいだろうし。
そうなると、戦闘系以外の魔法になるのだけれど……。
「前住人に倣って、空間魔法の研究でもしてみようかな。
容量が小さくても魔法でアイテムボックスが使えるようになれば便利だろうし」
実験室の資料を漁ってわかったことなのだけれど、空間転移が再現できていないだけで、実は空間魔法のアイテムボックス自体は結構使える人がいるらしいのだ。
まあ、それなりに難度の高い魔法らしいけれど、前世の知識があって魔力量が増えた今の私であれば、案外簡単に使えるようになるのではないかと思ったりもするし。
「まあ、そのあたりもゆっくりと試していけばいいか」
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